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雨の日の彼女 ページ47

背後で金切り声が響いた。

勢いよく扉を開けて逃げるように外に出る。

遠くで雷が鳴っている。
大きな雨粒が全身を打つ。

まるで突き刺さるようなその感覚に痛いと叫ぶ。
それでも足を止めることはない。


暫くの間、ただ我武者羅に走って、少ない体力が底をついたところで漸く立ち止まる。


肩で大きく息をする。

空を仰げば分厚い雲が太陽を覆い隠していた。

家を出たときよりも雨脚は強くなっているようだ。


時折響く雷鳴は、叫ぶことの出来ない僕の代わりのように思えた。


いつからか出なくなった声に、いつからか分からなくなった感情に、自分が誰だか分からなくなったのはいつだっただろうか。


蔑んだような目をつける男は父親であったはず、なのだが。

猿のように甲高い声を上げるアイツは、母親であったはず、なのだが。


頬を伝う水が涙であれば良かったのにと思う。
泣き方を忘れてしまった私の、涙であれば良かったのに。

『探したよ』

優しい、鈴をならすような透き通る声に視線だけを寄越す。

雨風なんて関係ないと言う風にそこに立つ彼女は、誰だっただろうか。


短い髪から覗く首筋がゾッとするほど白くて、彼女が一歩近付けばその分周囲の温度が下がったかのように感じた。

『こんなに濡れて、寒いでしょ』

彼女によって柔らかく包まれたはずの体は暖まるどころか徐々に体温を奪われていくようだ。

『もう大丈夫だから。お父さんのことも、お母さんのことも、心配しなくて良いから』

お父さん。お母さん。
それは、一体、誰のことだろう。

──ああ、でも。

思考回路が鈍った頭で、どうでも良いかと思えてくる。


重くなった瞼をそっと閉じて、優しい彼女の腕の中で微睡みに溶けていった。





─雨の日の彼女─END

ハロウィンの夜に→←最低で最悪で、僕にとって最愛の君に



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八重(プロフ) - カシオペアさん» ありがとうございます!!まさかこっちまで読んで頂けるとは……その上コメントまで……本当に感謝します(*/□\*)上手なんて、恐縮です……(でも嬉しい)頑張ります!ありがとうございます!本当に!!! (2017年7月3日 21時) (レス) id: e19e44ac0b (このIDを非表示/違反報告)
カシオペア - ヒロアカの方を読んだので、こちらものぞいてみましたが本当に文を書くのが上手なんですね。一つ一つが短くて読みやすいです。更新、頑張ってください! (2017年7月3日 20時) (レス) id: 972c361b83 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:八重 | 作成日時:2017年4月24日 2時

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