月の出る夜に ページ43
隣を歩いていた足音が止まった。
振り返って、どうしたのだと問いかける。
彼女の夜闇に溶けてしまいそうな黒髪が風に揺られてふわりと持ち上がる。
柔らかな月の光が彼女の姿を幻想的に浮かび上がらせる。
彼女の澄んだ黒い瞳が静かに月を見上げている。
そんな彼女に見とれて言葉を失う。
決してこの姿を映すことのない彼女の瞳に惹かれて。
それでも、ほんの少しだけでも良いからこの姿を捕らえて欲しい、だなんて。
「月が……」
ポツリと呟いた彼女の声が優しく鼓膜を震わす。
月？と繰り返して彼女の目線を追う。
暗闇にぽっかりと浮かぶ丸い月。
くっきりとその輪郭を浮かばせているのに、どこか朧気なそれに彼女とは正反対だな、なんて考える。
彼女は、そこにいるのにまるで今にも消えてしまいそうだから。
「月が、綺麗ですね」
その言葉に目を見開く。
ゆっくりと、彼女の方へ視線を向ける。
彼女は相変わらず月を見上げていて、相変わらず消えてしまいそうで。
そんな彼女にきっと他意は無いんだ、って理解はしてももしかして、なんて甘い考えが頭を占領する。
「先輩」
行きましょう、と言って何事も無かったかのように再び歩き出す彼女の隣に並ぶ。
きっと彼女は、明日になったら忘れている。
その程度の些細な出来事だ。
それで良い。
この先この出来事を覚えているのは世界中でただ一人、僕だけで良い。
僕の淡い恋心と共に、静かに思い出にしてしまおう。
死んでも良いわ、と呟く。
小さく、小さく。
何か言いました？なんて言ってくる彼女には絶対に教えてやらない。
何でもない、とふざけた調子で答えて笑い飛ばした。
大好きだったよ。
ちゃんと、本気で。
ありがとう、さようなら。私の初恋。
─月の出る夜に─END
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八重(プロフ) - カシオペアさん» ありがとうございます！！まさかこっちまで読んで頂けるとは……その上コメントまで……本当に感謝します(*/□＼*)上手なんて、恐縮です……(でも嬉しい)頑張ります！ありがとうございます！本当に！！！ (2017年7月3日 21時) (
レス) id: e19e44ac0b (このIDを非表示/違反報告)
カシオペア - ヒロアカの方を読んだので、こちらものぞいてみましたが本当に文を書くのが上手なんですね。一つ一つが短くて読みやすいです。更新、頑張ってください！ (2017年7月3日 20時) (レス) id: 972c361b83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：八重 | 作成日時：2017年4月24日 2時
