20 ページ21
彼女の手に握られていたのは見覚えのあるバッヂだった。
リゾットの、労るような視線が鬱陶しくて、けれどこの感情をどこにぶつければ良いのかわからなくて、私はただ歯を食い縛り俯いていた
今朝生けたばかりのアネモネは、夕日に照らされ凛と咲いている。
「連絡を受けて、俺が駆けつけたが、」
プロシュートが気の毒そうに言葉を選んでいるのを感じた。
相変わらずさらりと手入れの行き届いた髪を撫でてみる
目元に手を添え、頬を撫でる。唇をなぞる。
「死んでた、か」
「……ああ」
「暗殺者は君達以外にも?」
「聞いたことはないな。だが、パッショーネはギャングだ」
「……そう、そうだな」
痕跡はない。
手を叩きたくなるほど見事なプロの仕事だ。
組織の人間がやったとして、報復すればそれは裏切り行為だ。
私は今、1人ではない。
彼女から離れて、窓枠を見下ろす
「A、」
「報復するつもりはない」
優しい夕日が彼女の髪を美しく照らした。
いやに落ち着いた私に、プロシュートもリゾットも哀れむような視線を向ける
私は彼女の手からバッヂを抜き取り、スーツのポケットに突っ込んだ
彼女の葬儀には出られない。
墓に参ることもきっと赦されないだろう。
アネモネの花を一輪抜き取り、花弁に口付け、彼女の胸元に添えた
「さようなら。エルルーシャ・バルザレッティ」
・
50人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:東雲出雲 | 作成日時:2018年7月1日 15時