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和気藹々(わきあいあい)と会話していて、なんだか交じれない雰囲気がある。
美羽はいろいろ言いたいことがあるようだが、ふたりの会話を近くで黙って聞いている。
真緒が、心配ばかりしているのがむしろ気恥ずかしくなったのだろう、ちょっと言い訳がましく付け加えた。
「それに人数が多いほうが、練習の幅も増えるだろ?」
「べつにいいのに〜......。衣更くんは、ほんと『世話焼き屋さん』だよね。
でも布団とかないでしょ、どうするの?」
「あぁそれなら、いったん家に戻って、必要なものもってくるよ。さいあく寝具なんかレンタルするしな____
あんまり、校内資金には余裕ないけど。
そのついでに、もう遅い時刻だし......朝霧先輩を家まで送ってく。ってことでいいな? 決定!」
「衣更くんは、強引だなぁ」
真は呆れたような、嬉しそうな半笑いだ。
そのとき、今まで黙っていた美羽が口を開いた。
「......何を勝手に決めているの。私は泊まるって言ったはずよ、真緒くん」
「えっ? 朝霧先輩も泊まるつもりだったの? 駄目ですよ、いちおう異性ですよ? 寝泊まりするなんて、何かあったらどうするんですか!?」
「そうそう、おとなしく帰ってください。
朝霧先輩と一夜をともにしたなんて、あとで知られたら北斗やスバルに何を言われるかわかりませんから」
「べつに、勝手に言わせておけばいいでしょう。【ついで】で送られるくらいなら、一緒に練習に付き合うわ」
真剣にそう言う美羽に、真も真緒も困り顔になってしまった。
「でも、ご家族とか......」
「平気よ。ひとり暮らしだから」
真の質問に、間髪入れずに返答する。
「うぅ......」
「まぁまぁ先輩。俺たちも、先輩にゆっくり休んでほしいんですよ。ほら、帰りますよ〜?」
項垂(うなだ)れる真に気を遣ってか、真緒が強引にも連れて帰ろうとする。
頑(かたく)なに泊めてくれないふたりに不貞腐れながらも、諦めたようで、帰る支度を始める美羽。
そんな彼女に、ふたりは安堵の息を吐く。
「......あ」
支度をしていた美羽が、小さく声を発した。
「どうしたんですか、先輩?」
「いいえ、何でもないわ。ちょっと待っててもらえるかしら、すぐ戻るわね」
有無(うむ)を言わさず、防音練習室から出ていった美羽。
彼女の背中を、真と真緒はぽかん...と眺めるしかなかった。
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作者名:白銀桜夢 | 作成日時:2018年8月9日 18時