思い馳せる姫君 (ページ45)

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「だってさ、沈んでるより浮かれてるほうがいい。泣いてるより、笑ってるほうがいい。暗いより、明るいほうがいい。鬱々(うつうつ)してるより、キラキラしてるほうがいい」

　彼の心が、彼女の中に入っていく。

「それが当たり前で、みんなそうなんだと思ってた」

　怖いぐらいの、一体感。

　やはりこれは会話ではなく独白だったのだろう。

「でも、ちがった。他のみんなは苦しんだり悩んだりする、それが心地よい場合すらある。

　俺は、それを知らなかった。

　それでさ、むかし......。ホッケ～たちと出会う前、1年生のころ、俺はクラスで浮いちゃってた」

「......」

「みんなも俺と同じなんだと思って、笑おう楽しもう、はしゃごう輝こうって、言いつづけてたよ。今も、その癖は抜けない。

　そういうのが重荷になるひともいるって、ホッケ～たちに教えてもらえたのに。わかんないんだよね、まだ実感できない」

　周りも、そんな彼にどう対応したらいいのか、わからなかったのだろう。

　異世界から来たような彼を、北斗たちが見つけて、抱きしめてあげるまでは。

　彼はずうっと、綺麗な、ただ輝きを放つだけの流れ星として漂っていた。

　ゆっくりと、損なわれながら。

「それは、ちょっと哀しい。これが、たぶん『哀しい』ってこと。俺は、その感情を知らなかった。

　笑って、幸せなつもりで......。でも自覚していないだけで、心は哀しくて痛かったんだと思う」

　いつも無邪気に笑っていた、スバル。

　けれど、その笑顔の奥には途方もない空虚(くうきょ)な暗闇が、広がっている。

　永劫(えいごう)の孤独が、彼を切り刻んでいる。

「痛みに気づかなくて、でも傷ついていて......。俺の心は変な具合に歪んで、おかしくなってた。

　それに気づかせてくれたのが、ホッケ～たちなんだ」

　そこまで語って、スバルは微笑んだ。

　雪山で遭難していて、ようやくあったかい暖炉にあたることができた、旅人みたいだった。

「大事な仲間だ、俺の人生を救ってくれた。だから、恩返しがしたい。俺は笑って、歌うことしかできないけど。

　その精一杯で、みんなの夢を叶えたいよ」

____似てる。

　彼女は、そう思った。

　その機能だけしかもたされていない機械みたいに、彼は笑っている。

　アイドルらしいなどと、簡単な言葉でわかったつもりになることもゆるされない。

　見ているだけで不安になるような、恐ろしい笑顔だった。