白銀の小麦畑 ページ24
ひと寝してゼクがイレブンに起こされた時、日は暮れ辺りは宵闇が包み込んでいた。
一行は揃って夕飯を済ませると、酒を飲む者や疲れているからと先に部屋に戻る者もいた。
ゼクは酒瓶を片手に、ふらりと1人で宿の外へ出た。
その背を盗賊が視線で見送る。
「…行ってきたら?」
「は?…なんでだよ。」
「あれ?ゼクが気になるんじゃないの?」
誰にも言っていないカミュの心の内を、イレブンはまるで見透かしたようににこやかに言葉を紡ぐ。
「気になるっていうか…なんか、無意識にゼク見てるって言うか…」
「うん、それで?」
「シルビアのおっさんとゼクが話してたりすると、なんかイラッとしたり…ベロニカやセーニャ、イレブンにはなんともねぇのに…」
「カミュ…それ、嫉妬だよ。」
酒入り勇者はズバッ、と言ってのけた。
カミュは理解したとたん、酒に酔ったからとは言い難い程に顔を赤くさせた。
「マジ、かよ…」
「…行ってきなよ、カミュ。」
「いや、無理だろ!」
自覚してしまったから尚更、とカミュは両手て顔を覆いその肘をテーブルに付けた。
あー、だとかどうすんだよ、とか1人悶えるカミュを、イレブンはニコニコと見守っている。
「…なぁ、イレブン。」
「何、カミュ。」
「世界がどうにかなるかもしれないって旅をしてるんだよな、オレたち。」
「追われながらね。」
「……ゼクも、そういうのは今は違うんじゃねぇかな?」
「好きなものは好きだからしょうがない、じゃないかな?伝える伝えないはカミュの選ぶことだけど、一緒にいることも拒否はしないと思うよ。」
カミュは瓶に残った最後の酒をグッ、と気付け薬の如く煽って空き瓶をダンッ、と置いた。
「…行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
酒入り菩薩な勇者は、にこやかに盗賊の背中を見送った。
───
柵にもたれ掛かり、ゼクは月を見上げながら酒瓶を煽る。
昼間は黄金に輝いていた小麦畑は、今は月光を浴びて白銀に輝いている。
扉の開く音に気づき、ゼクは視線だけで誰が来たのかを確認した。
「良い子は寝てる時間だぜ。」
「ガキ扱いすんな。」
そういつもの様に返しながら、カミュはゼクより少し後ろで月を見上げた。
「…月、綺麗だな。」
他意はないであろう言葉に、ゼクは危うく口に残っていた酒を吹き出しそうになるが堪えてむせた。
「おい、大丈夫かよ。」
「悪ぃ…っ、平気だ。」
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年4月1日 23時