追手 ページ12
｢清き泉の水……そいつが手に入れば、ヤヒムを助けられるのか？それならオレ、聞いた事あるよ。｣
ラッドは、ダーハルーネより西に流れる川を遡ると霊水の洞窟という場所があると一行に教えた。
そして、窃盗を働いておいて図々しいがヤヒムを助けてくれ、と一行に頼み込んできた。
｢わかった、任せてよ。｣
｢ありがとう、お兄ちゃんお姉ちゃん、おじさん。｣
子供らしい笑顔と感謝。
だが、1人だけおじさんと呼ばれてなんとも言えない表情をしていた。
───
ラッドが教えてくれたとおりに霊水の洞窟の最奥には、清き泉があった。
作り方を把握していたセーニャが、その場で神聖な水を汲んでさえずりの蜜を調合した。
それをヤヒムに届けるため、一行は洞窟からダーハルーネへと戻ってきたところだった。
｢まぁ……ちょっと見ない間に、町はすっかりコンテストの雰囲気ですわね！｣
そう言ってセーニャは、子供が親に言うように町並みを見てと楽しげ勇者に言う。
｢や〜ん、ロマンチックじゃない。もうすぐ、あのステージの上にイイ男達が勢揃いするのね。｣
｢シルビア、言いながら俺を見るな！｣
語尾に音符やハートを付けて言うシルビアの視線に、ゼクは眉間に皺を寄せた。
｢ねぇ、イレブンちゃん、カミュちゃん、ゼクちゃん。ヤヒムちゃんの顔も見たいし、さえずりの蜜はアタシ達女3人で届けてくるわね。その代わり、アナタ達にコンテストの場所取りをしておいてほしいの。｣
｢はぁ？｣
｢イイ男がよく見える場所を、取っておいてね。｣
｢あ、おい！シルビア！｣
ゼクの呼び止める声に止まることもなく、シルビア、ベロニカ、セーニャの3人はヤヒムの下へと向かっていった。
｢面倒くさい仕事は、全部男任せかよ……｣
｢ま、いいんじゃね？やることもねーし、とりあえず広場まで行ってみよーぜ。｣
｢そうだね。｣
仕方なしに3人は、メインストリートの奥に見えているステージらしき場所に向けて足を進める。
ステージとの距離が縮まる度ゼクは、ステージ上にいる人物に既視感を覚え始めた。
｢…まさかな。｣
｢どうした、ゼク？｣
｢いんや、何でもねー。｣
カミュに訝しがられながらも、騎士は確証の得られない情報は与えるべきじゃないと考え閉口した。
だが、その既視感はステージ前で本物に変わりそれと同時にゼクの表情が険しくなった。
｢ちっ、マジかよ…｣
そんなことも知らず、一人の男が近づいてきた。
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作者名：春月是駒 | 作成日時：2023年4月1日 23時
