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振り向いた先にいたのは千夏ちゃんだった。
その目は泣いたのか、
少し赤く充血しているように見える。
「もしかしてAちゃんもサボり？」
彼女の声は明るかったが
無理をしているのは明々白々だ。
「……うん、そうなの」
笑おうとしたのだけれど
彼女に対する罪悪感からか上手く笑えなかった。
冷えたコンクリートに腰を下ろすと
隣に千夏ちゃんも座る。
「ごめんね」
今まさに言おうとしていた言葉は
私ではなく彼女の口から先に出た。
「せっかくAちゃんが
“大丈夫”って言ってくれたのに。
駄目だった─────」
声を震わせる彼女に、私も泣きそうになる。
「届かなかった。
ごめん、本当にごめんね……」
立てた膝に顔を埋めて咽び泣く、
千夏ちゃんに慌てて言う。
「謝らないで……、
千夏ちゃんは何も悪くない」
唇を噛み締め、地面に視線を落とす。
「悪いのは私」
「Aちゃんのせいじゃ────」
「ううん。今までずっと言えなかったけど、」
頭の中を駆け巡る記憶。
ぎゅ、と目を閉じた。
『“見てるだけで充分”とか、
偽善ぽくて俺はそっちのがやだけどね』
『誰も傷つかない恋なんてないんだよ！』
そらには彼女がいたのに、
言われるがままに彼と居た私。
望んではいけないと
初めから分かっていたのに、
望まないと決めていたのに、
分不相応にも期待してしまった私。
彼女の前で悪者になるのが恐くて、
気休めのようなことしか言えなかった私。
綺麗事ばかりで、偽善者だった私。
─────自覚しなくは。
誰かを好きになるってことは、
誰かを傷つけるってことなんだ。
「私、そらのことが好きだった」
そう言った瞬間に顔を上げた彼女は
ひどく驚いた表情をしていた。
見開いた目から、ぽろ、と涙がこぼれ落ちる。
「……」
暫く黙り込んでいた彼女が
唐突に小さく笑った。
「そっか、そういうことか……」
何かに納得した様子で数度頷いて見せる。
「わかった────」
千夏ちゃんの瞳がゆらゆらと揺れる。
泣くのを堪えているみたいに見えた。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年11月25日 1時
