#13 ページ13
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「ま、待って、エイジ」
そう呼び掛けるが、
彼は私の声なんて聞こえていないかのように
人の間を縫ってどんどん歩いていく。
私は腕を引かれながらすれ違う人を避けて
ついていくのがやっとだった。
「待ってってば！」
階段を上って廊下に差し掛かった所で
バッと勢いよくその手を振りほどいた。
ぴた、とエイジが立ち止まる。
「……」
そして黙ったまま動かない彼に、
私は戸惑ったまま口を開いた。
「何か変だよ……、昨日から」
“昨日から”を言うかどうかは躊躇われた。
挙句、言った。
昨日のことを『冗談』として済ませるために
生まれてしまった小さな小さな感情は、
なかったことにしなければいけないのに。
「ご、めん……。
掘り返すつもりじゃなかったんだけど」
半分だけ振り向いたエイジの表情に怯んで咄嗟に謝る。
「何で謝んの」
そう言った彼の声音は
表情とは裏腹に優しかった。
「俺の方こそ、ごめん。
……勝手なことばっかりして」
意外だった。
そんなふうに謝られるなんて思わなくて、
一瞬固まってしまったが
直ぐに首を左右に振ると言った。
「勝手なことじゃないよ。
正直……辛かったし。
エイジはいつも助けてくれる」
ただ、だからこそ、昨日は驚いたんだ。
それと同時にショックだった。
あんなふうにからかってくるとは思わなくて。
「……」
「……」
芽生えた感情─────それは決して、
ポジティブなものじゃない。
だけど確実に揺れている。
マイナスの感情、プラスの感情、
相対するふたつが行き場もなく彷徨っている。
「こんなとこで何してんの？」
沈黙を破ったのは、
階段を上ってきたそらだった。
彼女も一緒だ。
「別に。 話してただけ」
エイジが無愛想に答える。
「そっか」
しかし、そらは気を悪くした様子もなく
ニコニコしたまま「じゃあまた後で」と
教室へ向かい歩いて行った。
「……無神経」
二人の背中を見つめていた私は
そんなエイジの呟きに
「え？」と視線を戻した。
「無神経じゃん、あいつ」
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年11月25日 1時
