【第五人格】好きなだけ。【短編集】

甘い お相手自由 ページ12

甘い所だけ味わっていたいの。
苦い所なんていらないわ。

近づかないで、気持ち悪い、嫌い。
なんで、どうして。
私はただ貴方を愛しているだけなのに。
全部貴方の為なのに。
じわりじわりと苦いものが広がっていく。

貴女が傷つかないようにって、笑ってくれるようにって、私を見てくれるようにって頑張ったのに！
貴方は私を拒絶した！

でも許してあげるの。
それは照れ隠しなのだから。

本当の貴方は凄く優しいもの。

抱きしめてと言ったら抱きしめてくれる。
キスをしてと言ったら何回でもしてくれる。
欲しくてたまらない愛の言葉だって。
みんなの前だと恥ずかしくて拒絶してしまうだけなのよね。 そうに違いないわ！

私、貴方の事ならなんでも知ってるのよ。
寝起きが悪くて朝食は遅めにとる事。
お箸が上手く使えない事。
いつも右足から歩く事。
嘘をつくときは左耳を触る事。
いつも決まった時間に寝ている事。
他にも沢山貴方の事知ってるのよ。

なのに、可笑しいわ。
本来私に向けるはずの顔を他の人に向けるだなんて。
苦い、苦い、苦い。
許さない。

｢...ねえ、なんであんな人に笑いかけたの？｣

｢......｣

何も答えてくれない。

｢ねえ、ねえ、ねえってば！｣

手に持っているものを振り下ろす。
ぐちゃり、貴方から赤が溢れ出す。

｢なんで、なんで、なんで、なんで｣

貴方に寄り添って目を瞑る。
少しずつ小さくなっていく音。
少しずつ冷たくなっていく貴方の体。

貴方が悪いの。
あんな人に笑いかけるから。
私を見ないから。

でもこれで私と貴方、二人きり。
他の人なんていらない。
私には貴方が、貴方には私がいればそれでいいの。

だって私、苦いのは嫌いなのよ。
甘い所だけ味わっていたいわ。

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