夏が嫌い 納棺師 ページ2
夏が嫌いだ。
じりじりと肌を焼き付ける太陽が
五月蝿いくらいに大声で鳴き続ける蝉が
気持ち悪いほどにじとりと汗ばむ身体が
そんな身体に吸い付くかのように張り付くシャツや髪の毛が
「……」
でも、何よりも彼のこちらまで溶けてしまいそうなほどに熱のこもった視線が嫌いだ。
「好きです」
後頭部に手を添えられ、微かに響いたリップ音が開始の合図だ、とでも言うように触れるだけの優しい口付けを繰り返され、少しずつ力が抜け、呼吸ができなくなる。
繰り返される口付けの合間、微かに熱い吐息が漏れるのがなんだか無性に恥ずかしく、彼の胸板を必死に押し返す。
「ん……」
しかし力が入らない今、押し返すように、とはいっても実際には彼の胸板を緩く撫でるだけであり、
むしろ口付けは激しくなっていくだけだった。
「っ……!」
「ふ…っ……」
優しく触れるだけだった口付けはまるで獣のように噛み付くような口付けになり、後頭部に添えられていた手には少し力がこもり、自分から離れるなんて出来ない、許されない。
せめてもの反抗に睨んでやろうと思い、うっすらと目を開ける。
「ん…っ……」
ああ、嫌だ。
目を開けると飛び込んでくる彼の整った顔立ちが、欲がどろりと溶けた瞳が、愛おしそうに私を見るのが。
全てが嫌だ。
「も…っや……ぁ」
嫌なはずなのに身体は馬鹿みたいに疼いて。
口では嫌、といっても本能は、身体は、彼を求めて仕方なかった。
それを見透かしたかのように彼が目を細める。
「すみません、もう我慢できないです」
後頭部を抑えていた手の力を緩め、ようやく荒々しい口付けを終えた彼はそう言って私を押し倒した。
そして、そんな彼の欲に今日も溺れて、嫌という程に愛でられるのだと理解した。
「ん…好きにしていいよ」
蝉の声はもう遠くて聞こえない。
シャツは先程よりも汗を吸ってベタベタと身体に張り付いていて、夏の暑さがじわりと身体に纏わり着いているかのような感覚に陥る。
だから、無性に身体が疼いて既にどろどろに蕩けてしまっているのも全て夏のせいであり、全て仕方ないと思う事にした。
157人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
うめぼし - あぁ…好きです… (2022年2月10日 0時) (レス) @page19 id: 6957d2b079 (このIDを非表示/違反報告)
あんず(プロフ) - 杠さん» コメントありがとうございます。小一時間踊り狂えるほど嬉しいです。ぜひ引き込まれてください (2019年12月8日 11時) (レス) id: 584fcfefdb (このIDを非表示/違反報告)
杠(プロフ) - うわ素敵な文章かかれますね…引き込まれちゃいそうです… (2019年11月2日 10時) (レス) id: 28dffd500b (このIDを非表示/違反報告)
あんず(プロフ) - ぽぴらさん» 温かいコメントありがとうございます...!なるべく早く更新できるよう頑張ります〜 (2019年7月27日 2時) (レス) id: 584fcfefdb (このIDを非表示/違反報告)
ぽぴら(プロフ) - ヒーーーッ好きです……悶えました……更新待ってます〜 (2019年7月8日 23時) (レス) id: 3f5b5addce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あんず | 作成日時:2019年6月10日 19時