番外編 ページ21
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師走の菓子店は大わらわだ。
正月菓子の予約や大人気になったアムリタの注文、それらに追い立てられた忙しさも一息ついた12月31日。
この店の店主である米津玄師は、枝垂柳の枝を店に運び込んだ。
「どうしたんですか玄師さん!?
そんなに大量の枝!」
「餅花を作るんですよ」
「餅花?」
「お正月の飾りで、紅白の丸い物がついた枝を見たことはないかな」
「あ、あります。
でもアレって、食べるものじゃないんですよね?
なんでウチで作るんですか?」
「元々お餅で作るもので、飾った後、焼いて食べられるんですよ。
これはお隣の花屋さんからの頼まれ物です。
仕入れ間違いで、急遽準備しないといけないらしくて」
「なるほど。
因みに、いくらで請け負ったんですか?」
玄師はますますニッコリ笑う。
「サービスで無料に」
「無料!?」
真衣は目を剥いた。
「この忙しい時期に無料で仕事を請けるなんて!
どうかしてます」
玄師はけろりと答える。
「お歳暮代わりですよ」
店主の言葉に真衣はそれ以上反論できず、ただ溜息を吐いた。
枝垂柳を店の大きな花瓶に挿して、玄師は厨房に入った。
餅米を準備して蒸し上げていく。
客がいなくて暇な真衣は、店舗と厨房の間に立ち、玄師の仕事を眺めた。
つきたての餅のうち半分を薄く伸ばして冷まし、もう半分に食紅を混ぜてピンクに染めていく。
「なんだかウドンみたいですね」
「ウドンみたいに食べたら、喉に詰まらせる恐れがあるね」
玄師は伸ばした白とピンクの餅を、粉を打った板に乗せて店舗へ運び出す。
「まさか餅花を店の方で作るんですか?」
「うん。
枝が枝垂れた状態で餅をつけるんだけど、厨房には花瓶がないでしょう」
「花瓶を厨房に運べば・・・」
「こんな重い物、俺の細腕じゃ無理です」
そうは言うが、玄師は30キロの米俵を担げるのだ。
力が弱いわけがない。
けれど、今日は客が少ない。
真衣は玄師の好きにさせることにした。
玄師は店の隅にある狭い喫茶スペースに餅と枝を運び、花瓶に生けた枝に、小さくちぎった餅をつけていく。
白が全て終わって、ピンクに移った。
白、ピンク、白、ピンクと交互につけていき、柳の枝は餅の重みで美しくなる。
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作者名:井原 x他1人 | 作成日時:2020年6月14日 11時