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玄師はくしゃりと顔を歪めた。
「いいのかな・・・。
美菜子を死なせたのに、俺だけお菓子作りを楽しんで、そんなこと許されるのかな」
真衣はその揺らぎを止めるように、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「それは玄師さんにしか分からないんです。
だからお菓子を作って、その答えを探しましょう」
玄師は小さな子供のように、こっくりと頷いた。
その日から、玄師はオリジナルのお菓子作りに没頭した。
店頭に並べるお菓子の種類も減らし、制作時間の殆どを新レシピの考案に使う。
個別の注文も出来る限り受けないようにした。
真衣は常連客に断りを言い続けた。
常連客は皆何かを察してくれたようで、無理を言う人は誰もいない。
皆店舗に顔を出すこともなくなった玄師のことを気にかけ、少し寂しそうな顔で帰って行った。
その度に真衣は深く頭を下げ、客を見送った。
そして顔を上げると、何故か笑顔が強張っているのを感じるのだった。
そんな店舗の様子に気づくこともなく、玄師の表情は今まで見た事がないほど厳しく切羽詰まっていた。
鬼気迫る様子を真衣は祈るような気持ちで、そっと厨房の入り口から伺っていた。
店に並ぶお菓子はだんだん種類も数も少なくなり、玄師は日に日にやつれていった。
その姿はまるで呪いにでもかかったようで、お菓子作りを楽しんでいるようには全く見えない。
誰かを喜ばせるためにお菓子を作り続けていた玄師の姿は、どこにもない。
真衣は玄師にそんな姿でいてほしくはなかった。
きっと誰もが玄師のそんな姿は望んでいないだろうと思った。
「玄師さん」
レシピノートに没頭している玄師に、真衣が声をかけた。
「なに、真衣さん」
顔を上げずに答えた玄師に、真衣は申し訳なさそうに尋ねる。
「予約が入りました。
小麦粉を使わないクリスマスケーキです」
玄師は顔を上げ、無表情のままカレンダーに目をやった。
「もう12月も中旬か」
真衣は束になった予約票を玄師に手渡す。
「こんなに沢山のお客様が、玄師さんのお菓子を待っています。
作ってくれませんか？
玄師さんのお菓子を待っている人のために」
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作者名：井原 x他1人 | 作成日時：2020年6月14日 11時
