最終話 ページ36
*
「それ以上泣くな、酷い顔をしているぞ」
涙を舐め取られる。くすぐったくて、くすぐったい気がして、笑う。
「ふふふ。……無惨さま、大切なことを言い忘れていました」
顔を引き寄せ、耳に囁く。
無惨さまは目を見開き、困ったように笑うと、私のおしゃべりな口を塞ぐように、もう一度唇を重ねた。
ゆっくりと、真っ白になる。
無惨さま、死ぬことはなんにも恐ろしくないですよ。ただただ、指の先まで浸る喪失に、悲しみが襲ってくるだけなんです。
私はずっと、ずっと。
ーーねぇ無惨さま。
ーー次会ったときは、きっと、無惨さまをひとりにして残した私を、怒ってくださいね。
こうして、Aという幸せな人間は死んだ。
その後の無惨さまのことは、私も知らない。
死後の世界とは本当にあって、私はしばらくそこに留まっていたけれど、無惨さまには会えなかった。
何人もの人が通り過ぎた。
中には見知った顔もあったし、何なら何度も通り過ぎていった。
果てしない時間が流れた。
私は、いつか必ず無惨さまがやって来ると信じて待ち続けていた。
そうしてある日、とうとう。
桜が舞い散る。
すっと晴れた青空の下、私はおろしたての制服を身にまとい、庭に咲く藤の花を見ていた。
「学校遅刻するぞ」
「うん、今行く!」
ときおり、不思議な感覚になる。
何かを探し求めているような、大切な何かを探しているような。そんな感覚。
「昨日のテスト、どうせAは余裕だったんだろ?」
「そんなことなくもなくもなくもないかな!」
「どっちだよ! いいなぁ、頭良いやつは」
走りながら話し、曲がり角、人にぶつかり、私は尻もちをついた。
「いてて……ご、ごめんなさい」
学校の先生だろうか、まずは高そうな生地のスーツが目に入ってきた。するすると視線を上げると、神経質そうにスーツのホコリを払う、目鼻立ちの整った男の人の顔が視界に飛び込んでくる。そして何より綺麗な瞳、夜をぎゅっと閉じ込めたみたいなわ綺麗な瞳……。
するりと視線が私には移され、目があったその瞬間。
「……A?」
ーー時は再び、動き出した。
無惨さまに怒られない fin*
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時