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無惨さまのもとで生きるようになり、しばらく立った頃、ふと気がついた。
「今日の食事だ」
無惨さまから与えられる食事、それらは全部無惨さまが料理をしてくれている、らしい。あるとき私は覗いてしまった。無惨さまが私の食事に、少しずつ血を混入しているところを。
はじめてそれを見たのは、いつだったろうか。もうおぼろげで思い出せないけれど、確かに私は少しずつ少しずつ、無惨さまの血を摂取してきた。
無惨さまの血は、毒となる。呪いとなる。
名前を呼ぶと死ぬ呪い。
しかし私は何度も、何度も、無惨さまの名前を呼んだ。それでも生きてきた。
「無惨さま。私は無惨さまの名前を呼べる人生であったこと、とても幸せに思います」
唇が触れ合う距離で囁く。思いが届くように、確かに届くように、一番近くで囁く。
「お前以外は要らない……。要らないんだA」
私はふふふと笑った。
嬉しい、幸せだ。大好きな無惨さまにこんなにも思ってもらえて、私は、なんて幸せなんだろう。
ーー無惨さま、最後に怒られそうなこと、言ってもいいですか。
「なんだ」
手を取られる、冷たい頬に当てられる。
無惨さま、無惨さま。
こんな願い、本当に呆れられてしまうだろう。
「もしも、来世があるのなら、私は無惨さまと……太陽の下を歩きたい」
赤い瞳が見開かれ、私をじっと見つめる。なんて綺麗なんだろう。月を映した水面のような煌めき。
「穏やかな太陽の下で、庭にたくさんの花を植えて、本を読みながら、そうして、死を待つまでの悲しい人生を、一緒に過ごしたい。ふふ……そうだ、私の手料理も食べてもらいましょうね」
無惨さまの頬を一粒の涙が伝った。
なんて、酷なことを言ってしまったのだろう、いっそ怒られたほうが清々しい。
無惨さま。それでも私は伝えたいのです。
無惨さま。無惨さま。
次会うときは、太陽の下で笑いましょう。
そのとき無惨さまは、なんのしがらみもない単なる無惨さまであったなら、そのときはきっと。
「もう良い、分かった」
怒っているように、悲しむように、だけど憑き物が晴れたように、眉根が寄せられた。
ごめんなさい無惨さま。ごめんなさい
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時