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*
 
 
 揺れる、揺れる、揺れる。
 気持ちが揺れる、身体が揺れる。
 あぁ、浮足立つとはこのことなのだろう。



 街へ降りたとき、私は屋敷のある大まかな位置を把握した。私達の暮らしていた場所からは遥か遠い地だ。悲しくなるほど、遠い地だ。
 それでも無惨さまにもう一度会える。そう確信していた。

「街は楽しかった?」

 甘露寺さんにそう問われ、私は目を細め返事をした。

「はい。とても楽しかったです」

 照れたように笑った甘露寺さんは、頬を染めて、耳を寄せてきた。

「もしかして、好きな人に会ってきたの?」

 私は目を見開くと、へらりと笑った。

「違いますよ」

 これから会います。会いに行きます。
 その言葉は、飲み込んだ。
 あ、あら、そうだったの、と焦る甘露寺さんに首を振り、良いんですと言う。

「Aちゃん、なんだか最近幸せそうだから、会ってきたのかなぁって思ったの」

 確かに私は浮足立っている。



 街へ降りたとき、わざと転んで膝を擦りむいた。
 膝からは赤い血がにじみ、地面に滴り落ち、染み込んだ。
 無惨さま。きっと無惨さまなら、私の匂いをもとに、この場所まで来てくれるのではないだろうか。この場所まで来てくれれば、あとは私は叫ぶだけ。心の限りに。




 明日は満月だ。
 私がこの屋敷を飛び出す日。無惨さまのもとへ逃げる日。

 準備は入念に行ってきた。
 薬の調合の合間に、薬草を集めた。『睡眠薬』となる薬草だ。
 きっとある程度の毒には耐性があるだろう柱の人たちを眠らせることができるような、日本では主流ではないものを使いたかった。だから、無惨さまのもとで読んだものをもののなかから、この屋敷には記載のないものを何とか探した。

 屋敷のそばで取れない薬草は、街へ降りたときにいくつか摘んだ。買いもした。
 冨岡さんは熱心だな、と言っていたけれど、ごめんなさい。これはあなたの仲間を眠らせるためのもの。

 
 

「甘露寺さん」
「なあに?」
「死にそうになったら、絶対に逃げてくださいね」
「……え?」



 明日は満月。
 私が鬼殺隊の皆さんを裏切る日。
 
 目の前で微笑む甘露寺さんを、死へ近づける裏切りをする日。


 ◇◇



 時透無一郎さんは、私の出したお茶をなんの疑いもなく飲み干した。
 やがてしばらくして、うつらうつらと船を漕ぎ始めた。必死に耐えていたけれど、人が耐えられる量ではないものだった。

「……ごめんなさい」

 
 *
 

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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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