検索窓
今日:288 hit、昨日:237 hit、合計:789,202 hit

67 ページ19

*

「Aさん」

 再び襖の向こう側から声がして、私は警戒心を高め、布団を引き寄せた。私がはい、と掠れた声で返事をしたら、ゆっくりと襖が開いた。

「そんなに怯えずとも大丈夫ですよ、Aさん」

 向こうから現れた女性は、私の記憶が途切れる最後に見た女性だった。柔らかい表情、結われた髪と蝶の髪留め、そして鼻先をくすぐる藤の花の匂い。

「私の名は胡蝶しのぶ。あなたの体調が大丈夫でしたら、お館様に会って頂きたいのです」

 私は未だ、困惑していた。話の筋が読めず、ひたすら困惑していた。

「ご気分はいかがですか」
「……ここは、どこですか」
「教えることは出来ません」

 解答にならない私の返事に、胡蝶しのぶと名乗った女性は表情を変えることなく答えた。

「……お館様って、誰ですか」
「この屋敷の主です」

 つまり、誘拐犯組織の長ということだろう。そう簡易にあたりをつけ、私は頷いた。

「お館様にあわせてください」

 胡蝶しのぶさんは柔和な表情をぐすすことなく、分かりましたと呟いた。


 ◇


「君は貴重な情報を知っているね」

 お館様と呼ばれる青年は、病気を患っているらしく、布団にて上半身を持ち上げた状態で対面することになった。そして顔を合わせてそうそう、そんなことを言われた。

「……」

 私が答えずにいると、お館様は目配せをし、人払いをさせた。襖に囲まれた部屋にはお館様と私、ただ二人きりである。

「急に連れて来て悪かったね。でもそうでもしてここに連れてくるだけの価値が、君にはあるということを知っておいて欲しい」

 本質に触れない曖昧な言い方に不安が募る。さっきからずっと、夢を見ているみたいに輪郭が掴めない。この人たちは誰だ。なぜ私は連れて来られたのだ。

「君の噂を聞いたときには驚いた。まさかやつのそばに人間が、しかも少女がいるとは思わなかった……」

 やつ、やつとは、もしかして。
 像の結ばれぬ嫌な予感が背中を這う。
 お館様は、微笑んだ。

「単刀直入に言おう。私たちは君が持つ鬼舞辻無惨についての情報が欲しい。やつをこの世から、葬り去るために」

 思いもよらぬ言葉に、私は目を見開いた。

「……鬼殺隊」

 ふいに口からこぼれた。

「協力してくれるね」

 それをさも当然だと考えているような声色に、私はごくりと唾を飲み込んだ。

 *

68→←66



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1910 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
4210人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 鬼舞辻無惨 , 溺愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。