66 ページ18
*
ごろりと地べたに寝転ぶ。視界いっぱいに、眩いばかりの星が浮かんでいる。その昔、光が私の目にに届くまでには何億年もの時を要すると知ったとき、私はこの満天の星空を美しいと思った。
そんなことを思い出すのは、私の傍らに佇む人を美しいと思ったからだろうか。
「……A」
無惨さまは切なそうに私を呼ぶ。私は動かず、ただ天を見上げる。
無惨さまは決意したようにぐっと唇を噛みしめると、私に顔を寄せた。
唇が触れる、寸前。
私は何やら薄暗い部屋で目を覚ました。
「……起きましたか」
女性の声、だけど姿は見えない。声がくぐもっていたから、声の主は襖の向こう側にいるのだろう。
私は今、薄い布団に寝かせられている。室内は薄暗く、窓には大きな木の板が打ちつけられており、光がさし込まない。どうしてこんなところにいるのか。私はガンガンと痛む頭で、混乱のさなか、ひとつひとつ記憶を辿った。
◇
外国からの船が来る日、どうしてもと無惨さまに頼まれ、私は日の明るい頃合い、港にて開かれる市場に足を運んでいた。
どうしても参加したいけれど昼間のみにしか行われていないため、無惨さまは参加できないのだ。
私にしかできない仕事ということもあって、私は浮かれまくっていた。
「あなた、名前は?」
必要な本を揃えた後、帰ろうかとひとつ息をついたら、そう声をかけられた。
振り向くと、そこには柔らかく微笑む女性が一人。ふわり、と藤の花の匂いが鼻先をつついた。
「あなた、名前は?」
もう一度聞かれたので、私は迷った末にAです、と答える。すると彼女は再び柔和に微笑むと、私に手を伸ばし、抱きしめた。
「もう大丈夫です。あなたのことは私達が保護しますから」
え、と声を出す暇もなく。首のあたりに強い衝撃が加わったと思えば、気がつけば私は気を失っていた。
◇
誘拐、そのニ文字が少し落ち着いた私の頭の中にちらついた。どうやら私はあの柔和そうな女性に攫われてしまったらしいのだ。
私は改めて周囲を見回した。二面の壁と二面の襖に囲まれた部屋、唯一ある窓は塞がれ、外の様子を見ることは出来ない。照明が灯ってはいるが、心もとない薄暗さである。
私は白い布団に寝かされていた。撫でてみればそれはそれなりに質の良いものである。
以前、思い出したくもないけれど、陸太郎に攫われた記憶がある。
その時とは決定的に、何かが違うような気がした。
*
4211人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時