【文スト】だから、終止符を打つ【太宰治】

ティーカップの中の嵐 六 ページ8

「……It's a storm in a teacup(大したことない)、ですね」



わたしが情報を搾り取れるだけ搾り取ったあと、エドワード・ブラーを騙った新任指揮官は、紅葉先生の拷問部隊に連れていかれた。


あとのことは知らない。そこから先は、わたしの領分じゃない。


今日分は働いた、と思い切り伸びをしたところで、ぱちぱちぱちと拍手する音。


振り返ると、愉しそうな笑みを浮かべた太宰幹部が、わたしのすぐ後ろに立っていた。



「素晴らしい。方法は確かに突飛だけど、普通の拷問官よりも君は遥かに優秀だ」


「あら。紅葉先生の拷問部隊に、偶に救援に行かれている太宰幹部の方こそ、情報を落とせなかったことはなかったとお聞きしていますよ」


「血の臭いがしないだけ、君の方が省エネだよ」



成程、省エネ。その発想はなかった。


思わず笑ってしまうと、彼は更に笑みを深めて「でも」と続ける。



「Aさん、よく言われない？


…… 君は嘘を見抜くのは得意だけど、隠し事は下手だねって」


「……矢張り気づいていましたか？」


「中也と君が視線を交わした時から何となくね」



……そういう云い方だと、なんだかわたしと中原幹部がおかしな関係みたいだ。


でもまあ、わたしが彼に『本当の事』を言わなかったのは事実。


肩を竦め、わたしは座ったまま太宰幹部を見上げる。



「処罰しますか？ わたしに抵抗できる理由はないので、甘んじて受けますが」


「そういう訳にもいかないのだよ。中也が幹部である私に、部下が虚偽を述べることを許す筈がないから、Aさんは嘘をついている訳じゃない。


私と同じ幹部の中也が許したことで、私が勝手に処罰することは出来ない」


「成程」



うん。確かにそれは越権行為だ。



「それに君はあの時、『あらくれ』という“異能自体”が『心を読む』能力だとは一言も言っていない。


君の力は確かに『人の心を読む』ものだよ。でもそらは異能力ではなく、君自身の力。


それなら、『あらくれ』はそれを補佐する力だ……たとえば、人の仕草がより鮮明に見える、とか」



今度はわたしが心から驚嘆する番だった。


何て凄まじいひと。わたしの異能の詳細は、首領(ボス)も見抜けなかったことなのに。



「中ってた？」


「それはもう、ど真ん中です」


「それは善かった。……そこで提案なんだけど」


「はい？」



Aさん、私の下に来る気はない？

ティーカップの中の嵐 七→←ティーカップの中の嵐 五

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す