ティーカップの中の嵐 四 ページ6
「それで……あなたの異能力はどんなものなんですか?」
「……いきなりどうした?」
「わたしにもお仕事があります。聞かなくてはならないことは、聞かなくちゃいけません」
紅茶のカップをソーサーに戻し、わたしは顔にかかった髪を耳に掛ける。
柔らかく微笑んでみせると、彼は「あ、ああ……仕事。仕事だな」と呟いて頬を引き攣らせた。
(彼はまだ、わたしを“敵”だと認識出来ていない)
初頭効果。最初に与えられた印象・情報は、その後その人の評価に強く影響する。
わたしが更に笑みを深めると、彼は芝居がかった仕草で「残念ながら」とかぶりを振った。
「俺には異能力はない」
「嘘」
「……は?」
わたしは目の前の机に肘をつくと、手の甲に顎を載せて首を傾げる。
何を言われたかわかっていないのか、彼は訝しげに目を瞬かせている……混乱しているようだ。
「あなたの言っていることは嘘です。あなたにはきちんと異能があるはず……そうですよね」
「ち……違う。俺には異能力なんてない」
「ほら嘘。気づいていないかもしれませんが、ちゃんと頷いてるんですよ、あなたは」
「頷いてなど、」
人間の脳は大きく三つの部位に分けられる。大脳新皮質、大脳辺縁系、そして脳幹。……その中で主に感情を司るのが、大脳辺縁系だ。
人は思考を司る大脳新皮質で嘘をつくけれど、完璧に嘘をつくというのは不可能に近い……何故なら、大脳辺縁系の方が先に命令を体に伝達するから。
彼は首を振る前に、ほんの少しだけ……頷く動作を見せた。わたしは大脳辺縁系の反応を見ている。
「あなたの大脳辺縁系の反応が……
よかったです、あなたがサイコパスでなくて。反社会的主義者の嘘は、見抜きにくいんですよ」
「な、」
「教えて下さい。ついでに指揮官や他の構成員のことも。知っているでしょうブラーさん。同じ部隊の人間なんですから……当然ですよね」
「ど……どうして」
「どうして?」
愚問ですね、と呟いて……わたしは自分のカップを床に叩きつけた。
甲高い音を立て、カップが無残に砕け散る。
「まだご自分の立場がおわかりでない?
あなたはポートマフィアに捕まった捕虜で、わたしはポートマフィアの拷問官なんですよ?」
411人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっさん - さにー☆彡さん» 後書きの羊の宰相、リンク、スタートになってますけど笑。徳田さんの、転生前の本名は、謎のままでしたか... (2019年8月10日 9時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - くどはるさん» ありがとうございます……!!そう言って頂けてとても光栄です!太宰さんは妖艶でないとだめですよね笑ちゃんと書けていたでしょうか笑…続きではありませんが、後書きにある作品がこれにリンクしたものとなっています。ご興味あればぜひどうぞ! (2019年7月23日 7時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
くどはる - こんなに読み込んだ作品は初めてです…作者様の言葉の卓越さや文章の造りに心底惹かれました!!一つの小説として、何度でも読みたくなってしまいます!太宰さん最高に妖艶です。続きを期待してしまいますが、また新しい小説楽しみに待ってます!素敵なお噺ありがとう! (2019年7月23日 1時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - 涼風梓さん» なかなかに長い話でしたが最後までお付き合いくださってありがとうございます!!楽しんでいただけてよかったです! (2019年6月6日 15時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
涼風梓(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!面白くて一気見しちゃいましたw今更かも知れませんが完結おめでとうございます! (2019年6月6日 15時) (レス) id: b666f93d0b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さにー☆彡 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年3月24日 21時