だから、終止符を打つ 一 ページ40
「……それは、こちらの、台詞です」
声が、喉に張り付いて、出てこなかった。
彼は二度と、わたしの前に現れることはないと思っていたひと。
彼が、如何してミミックにいるのか、理解が出来なくて、現実に思考が追いつけなくて、わたしはただ崩れるようにパイプ椅子に座った。
「……如何して、あなたがここに居るんですか」
「好きでこんなところにいるわけじゃない」
きっぱりと言い切ったその目に、嘘はなかった。
わたしは空気を求めるように軽く喘いたが、上手く酸素を吸えなくて咳き込む。
ミミックの敵構成員は苦笑して、「落ち着いて」とだけ云った。
「私は今は、居場所を求める『
ミミックを捨ててどこかに行くことは出来ないよ……それに私は、ジイドを尊敬している」
「ジイド?」
「アンドレ・ジイド。私達の組織の長の名前だよ……君も聞いたことがある筈だ」
その言葉に、わたしは「よく覚えていません」と声を絞り出して答えを返した。
それには反論はなく、彼はただ静かに目の前の紅茶を啜る。
「……その人は矢張り、異能力者ですか?」
「異能力者さ。君のところの異能者……織田作之助の『天衣無縫』と殆ど同じ異能だ」
「ええ、織田作さんの異能は聞いています。端的に云うと、可変的な未来視能力ですね」
「ああ」
ことりと紅茶のカップを置くと、彼は黒檀の瞳を静かにわたしに向けた。
「とはいえ……これで私が君を撃たなかった理由は判ったね?
……さっきから聞いていれば、私のことを覚えていないというわけでは無さそうだ」
「ええ、よく……覚えています。あなたは一時期、『あの人』と親しかったから」
「まあ、私が好きで着いて行っただけだがね。それに君ともそれなりに仲良くして貰っていた気がするんだが」
そうですね、と下を向いたまま頷いた。
とても目を合わせる勇気はなくて、ただ静かに、小刻みに震えることしか出来ない。
怖かった。
それは太宰幹部と対峙した時の恐怖とはまた違う___わたしの『目的』を全て壊されてしまうという、そんな恐怖。
嗚呼、如何すれば。如何すればいいの?
ここから逃げ出してしまいたい。そんなことが許されるはずがないのに____
「さて、始めの質問に戻ろうか」
彼は無慈悲に、わたしにそう告げた。
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やっさん - さにー☆彡さん» 後書きの羊の宰相、リンク、スタートになってますけど笑。徳田さんの、転生前の本名は、謎のままでしたか... (2019年8月10日 9時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - くどはるさん» ありがとうございます……!!そう言って頂けてとても光栄です!太宰さんは妖艶でないとだめですよね笑ちゃんと書けていたでしょうか笑…続きではありませんが、後書きにある作品がこれにリンクしたものとなっています。ご興味あればぜひどうぞ! (2019年7月23日 7時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
くどはる - こんなに読み込んだ作品は初めてです…作者様の言葉の卓越さや文章の造りに心底惹かれました!!一つの小説として、何度でも読みたくなってしまいます!太宰さん最高に妖艶です。続きを期待してしまいますが、また新しい小説楽しみに待ってます!素敵なお噺ありがとう! (2019年7月23日 1時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - 涼風梓さん» なかなかに長い話でしたが最後までお付き合いくださってありがとうございます!!楽しんでいただけてよかったです! (2019年6月6日 15時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
涼風梓(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!面白くて一気見しちゃいましたw今更かも知れませんが完結おめでとうございます! (2019年6月6日 15時) (レス) id: b666f93d0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さにー☆彡 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年3月24日 21時