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着きましたよ、とジローランが車を止めて後部座席を振り向いた。隣から温もりが消えたのが寂しく感じるなんてな、と鼻で笑いながら憧れの人の隣を歩くために車内から出た。
『……随分でかい家だな』
「俺もいつ来てもそう思う」
『あんたの家だろ』
「そうだね」
インターホンを鳴らすと、はーいと女の声が聞こえた。変だ、Aさんの両親はベルギー在住で、今は2人とも仕事が忙しいからと日本にいるはずがない。それに何度か会ったことがあるが、こんなに高い声ではなかった。
一体誰だと眉を顰めていると扉が開き、知らない女が気持ち悪いほどの笑顔を浮かべて立っていた。
「おかえり Aくん」
「ただいま おかあさん」
「……隣の子は、ああ、この前言ってた期待してるMFくんでしょ。テレビで見たもの」
「ありがとう」
「入って 入って」
ふと、視界の端に表札が映った。
【黒日】 知らない名字だ、聞いたこともない。
なんなんだこれ
Aさんの母親の旧姓は「天赦」だったはずだ。
そもそも「おかあさん」と呼んでなかったか?
__________
「母さん、この子が糸師冴」
「あらぁ……イケメンさんねぇ…!!」
「相変わらず面食いだね。あ、手出さないでよ?」
「出すわけないでしょ、失礼しちゃうわね」
「食い入るように見つめてるから説得力皆無」
__________
初めて会ったときの会話を思い出す。あの時の母さんの言い方と、今のおかあさんの言い方は、明らかに違った。
じゃあ目の前のこの女は誰だ。
リビングに案内されると今度は見知らぬ男がソファーに座っていた。Aさんを見ると女と同じように気持ち悪い笑顔を浮かべた。
「おかえり Aくん」
「ただいま おとうさん」
「ニュース見てびっくりしたぞ、ブルーロックプロジェクトだったか?世界一のFWを創る計画に参加してるらしいな。嬉しいよ俺は」
「サッカーしてくる、庭のコート借りるね。行こう冴」
「その子は誰だ?」
「あらパパ、この前言ってたじゃない。糸師冴くんよ」
「糸師……ああ、天才MFの」
『…………どうも。』
広い庭で2人して無言でボールを蹴る時間が、やけに長く、無意味なものに感じたのはこれが初めてだった。
サッカーしてくる、と笑った時の顔が A・ユウェルとは全く別の人間に見えて気持ち悪くて仕方がなかった。
帰りの車内は、窓に頭を預けた。
『…嫌な思い出作っちまったな』
あんたの肩に寄り添うのが好きだ。
俺だけを視ていればいいのに。
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ミヒャエル - これ、続きって出ないんですか?この作品が好きでなんでも読んでしまうので早く見てみたいです! (2023年5月12日 9時) (レス) id: 75c64eb483 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - 初コメ失礼します!私男主の愛され大好物なので嬉しいです!ビーコンレタスもイケマス()ブルロのキャラ全員推しなので嬉しいです!更新頑張ってください! (2023年4月29日 18時) (レス) @page2 id: 3b02df20c8 (このIDを非表示/違反報告)
花紅柳緑(プロフ) - 天使。さん» ありがとうございます〜!!とっても嬉しいです!! (2023年3月3日 22時) (レス) id: 53a75dcec8 (このIDを非表示/違反報告)
天使。 - 最高に面白い作品です!!見ててニヤニヤが止まりません!!すごい好きです!! (2023年3月3日 21時) (レス) @page25 id: 68ee57cead (このIDを非表示/違反報告)
花紅柳緑(プロフ) - レモネードさん» そんなに前から読んでいただけて幸せです😢💓とても素敵なお言葉に感激してしまいました、時間のある限りは沢山の作品を書いていこうと思っているのでこれからもよろしくお願いします (2023年2月4日 22時) (レス) id: 53a75dcec8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花紅柳緑 | 作成日時:2022年12月3日 17時