桜前線 1【GO】 (ページ32)

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32　フォルテシモの対となる技ページ32

神童くんの技がフォルツァンドfzやスフォルツァートsfではなく、フォルテシモffだというのは素敵だと思う。自分の意志で力を発揮する、彼らしさがある。

譜面では音楽記号が指定されるが、その一つ一つには作曲家の思いが詰まっている。作曲家は弾く人にどのように音を表現してほしいかを指定することで、楽曲を託しているのである。そのため、コンクールでは楽譜に対して忠実に弾くことが求められ、それを基準に評価される。弾く人の勝手な解釈や都合で強弱を変えたり、スラーをスタッカートにしてはいけない。

フォルテシモffの対となるピアニシモ。ここぞという時に用いるフォルテシモと、繊細な表現に用いられるピアニシモ。ピアニシモppは強弱記号の一つで、「きわめて弱く」を意味する。強弱記号はppp、pp、p、mp、mf、f、ff、fffの順に音が大きくなる。pppやfffの登場は極めて稀。

譜面でピアニシモが指定される場合の演奏とはどのようなものだっただろう。ショパン作『木枯らし』の序奏では、嵐の前の静けさのような、なにか訪れる予感を感じさせる。ラヴェル作『水の戯れ』では滑らかさを保ちながらタッチが軽く、透き通る水を表現している。ピアニシモを指定する時、多くの場合、ペダルを踏んで遠くまで響かせる。

シュートを打つタイミングが音符だと仮定し、ピアニシモが指定されたとする。そのピアニシモの音は繊細で、響きがあって遠くまで響き渡る筈だ。

細い糸で丁寧に縫っていくような、そんな丁寧さ。慎重さ。ピアノの鍵盤に指を置き、押し付けるように、抑えるように、響かせるように奏でる。神童くんのフォルテシモのイメージをピアニシモに合うように、自分なりにアレンジして再びイメージ化する。ボールの中心より下を蹴る。パスのようなシュート。何度かシュートを放つも、微かな力を感じただけに留まった。それから数時間後。トン、とシュートを打つ。その一音は一瞬にして辺りに響き渡った。

「これって...」

もしかして、必殺技の前兆？

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