桜前線 1【GO】 (ページ11)

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11　学生でも社会人でもないページ11

その日一日は手持ち無沙汰な日を過ごした。その次の日も、その次の日も。正直暇だ。黒猫のリュートを膝に乗せて過ごす毎日。神童くんは帰ったら手早く夕食と入浴を済ませる。彼が部屋に入った後は中からピアノの音が聞こえてくるが、少し音が乱れていて不安定な気もする。ピアノのレッスンは週に一回で、レッスン前の日はしっかりと譜読みができているような音が聞こえてくる。

客室で椅子に座り、足を組んで肘をついた。そして、溜め息ひとつ。暇だ。何もすることがない。明日は散歩に出掛けてみようか。私が仕事に出ていて神童くんが家にいた時、神童くんもこんな気持ちだったのかな。あの時は仕事で精一杯で、神童くんの相手に時間があまり割けなかった。もしかしたら、寂しい思いをさせちゃっていたのかも。その時コンコンとノック音が聞こえた。ドアを開けた先には神童くんがいた。

「あれ、神童くんお風呂上がり？」
「今入ってきました。Aさんもどうぞ」
「うん。わかった」

いつものウェーブのかかった髪ではなく、艶のあるストレート。乳白色の良い素材のパジャマを身につけている。その下には、ほのかに色づくように自然な血色感の肌。

「数日経ちましたが、この家には慣れましたか」
「うん、お陰様で慣れたよ。こんな良いお家で過ごさせてもらって本当にいいのかなって思うくらい。何もすることがなくて、暇ではあるけど...」

そう言うと、神童くんは少し考える素振りをした。数秒が経ち、思いついたようにこう言った。

「俺の通っている中学校に転入しませんか」
「え！...雷門中学校に？」
「ずっと家にいるよりは、良い気分転換になると思うんです。何よりAさんと過ごす時間が増える」
「それは嬉しいんだけど...手続きとか...」
「任せてください」

頼り甲斐のある言葉に甘えて、手続きなどをお願いすることにした。そういった経緯で、なんと彼の通う雷門中学校に転入することとなった。この転入をきっかけに大きな冒険に足を踏み込むことになるとは、この時予想だにしていなかった。