愛の権利３＿skab

第116話 ab ページ23

めめと、ディープキス？
そんなこと、出来るわけない。
まず第一に佐久間と康二に知られたら。
そう思っただけでゾッとした。


「それはさすがに。
俺達本当に付き合ってるわけでも無いのに。」


ちょっと声が震えたけど、はいそうですかと素直に飲み込むなんて、そんなことは到底無理で。


「ドラマとかなら分かります。
でも事実として伝わるのにそれは…。」


さすがのめめも戸惑っている。
そんな俺達の気持ちを知ってか知らずか、相変わらず事務所の人は微笑んでいて。


「そうか、分かった。」


返ってきたのは、意外にも肯定だった。


「我々はあくまでマネジメントが仕事だ。
どうしても無理と言うなら仕方ない。」
「ありがとうございます。」


ほっと胸をなで下ろした。


「ただ、」


その言葉に不穏な空気を感じて、身を堅くする。


「我々はタレントで利益を上げなくてはいけない。
このイメージ死守のための仕事が契約成立されないなら、外出許可は無かったことに。
下手な外出でいらぬところを撮られては困るからね。」
「そんな…っ」
「スキャンダル一発でイメージを固定するか、ひっそりと継続して固定するのを待つか、二つに一つだ。
それは君達の好きにしたら良い。」


めめとのキス、それもディープキスなんて、佐久間達になんて言っていいか分からない。
だけど外出許可が無くなれば、また佐久間と会えなくなる。
ううん、それだけじゃない。

昨日の電話の、嬉しそうな佐久間の声が脳裏に過ぎった。





「…やらせてください。」
「阿部ちゃん！？」
「僕としては、その仕事、したいです。
目黒の意見もあるので、一人では決められませんが。」
「阿部くんはそう言ってるけど、目黒くんはどう？」
「阿部ちゃんまじで言ってる？
意味分かってんの？」
「分かってるよ。
分かった上で、俺はこの仕事を選ぶ。
めめは？
俺とは無理？」
「無理と言うか…。
でもどちらか選ぶなら、…阿部ちゃんが選ぶ方に俺ものる。
俺も、その仕事やります。」
「賢い選択だね。
契約成立だ。
決行は次の木曜日。
資料を頭に叩き込んでおくように。」


数枚の書類がホチキス止めされたものを渡される。


「検討を祈るよ。」


この地獄は、俺らが思っているよりきっとどこまでもどこまでも広く深く続いている。
それを分かっていながら、それでも足を踏み入れる俺が、きっと一番愚かだ。
それでも、他に進む道なんて無かった。

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