【男主】感触【胡蝶しのぶ】

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「何処にも行かないでくれ」＿＿＿＿



そう言って私を強く抱きしめるAさんの肩は、微かに震えていた。

私の頭と腰をぎゅっと引き寄せて、暫くの間、そうして抱き合っていた。

Aさんは一体、何が不安だと言うの……？

Aさんは素敵な人だから、私以外にも、見合う人なんて星の数ほどいる。

私には、貴方しか居ないのに……



「大丈夫ですよ……」



子供なんて、あやしたこともないのに、そうするようにAさんの頭をくしゃくしゃと撫でる。

そのとき、何かを呟いたように聞こえたけれど、私の肩に顔を埋めてしまったAさんの声は、私の耳まで届かなかった。



「ずっと、傍にいます……」



それは、Aさんを慰めるためにかけた言葉でもあり、私自身が言ってもらいたい言葉でもあった。

漸く顔を上げたAさんは、拗ねたような表情で。



「約束だからな……」



そう言って、私から離れると、背を向けた。



そんなAさんの後ろ姿は、なぜだか酷く危なっかしい、そんな気がして。

私が鬼に倒されてしまうのではないか、などと心配しているのだとしたら、申し訳ない……と思ったりもしたけれど。



このとき、Aさんが感じていた不安は、Aさんにも、私にも見当違いなもので＿＿＿＿










＿＿＿＿幸せはずっと続くものだと、錯覚してしまう。





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