9章:幸福なるもの、 ページ31
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「…………ん」
ぴちち……と、心地のよい小鳥のさえずりが耳を擽って、目が覚める。
ゆっくりと視線を隣に移せば、こくこくと頭を揺らしたAさんの姿があった。
私が寝ている間、ずっと……本当にずっと、側に居てくれた……
無意識に絡められた手も、Aさんはぎゅっと握って離す気配はなく。
そんな些細なことが、とても嬉しい。
うつらうつらしているAさんを横目に、手にちょっとばかり力をいれて握り返すと、Aさんがはっとしたように目を開けた。
「あ、れ……しのぶ、起きてたのか」
「たった今、起きました」
ふわぅ……と、小さく欠伸をするAさんが可愛らしくて、思わずクスリと笑う。
「そうか……調子はどうだ?まだ辛いか」
「いえ、おかげさまで、もうすっかり気分がよくなりました」
昨夜は、長い長い夢を見た気がする…………懐かしいようで、今も近くにあるような、そんな不思議な夢を。
「よかった……ごめんな、俺のせいで、無茶させて…………」
優しい瞳が細められて、空いたもう片方の手がさらりと頭を撫でる。
その一連の動作が、あまりに綺麗で息を飲んでしまって。
こんな綺麗で優しい人と私は……なんて、恥ずかしくなってしまって、布団を捲って起き上がる。
と、ふいに唇に柔いものが、ふにりと触れた。
「しのぶの唇は、本当に美味しいよな…………」
先程とはうってかわって、にやりと意地の悪い笑みを浮かべるAさん。
きっと、今ので顔の赤くなった私をからかっているのだろう……
「っはー……してえなあ」
「えっ」
息を吐き出すと同時に色っぽい声色で呟くAさんは、心なしか、少し苦しそうな表情をしている。
私は「何をですか……?」と聞き返すけれど、Aさんは「……なんでもねえ」と言って答えず、立ち上がった。
「さあて、朝飯でも食うかな。しのぶ、立てるか?」
「馬鹿にしないでください……もう治りまし……ひゃあ!」
情けないことに、ペタリと座り込んでしまった。
Aさんはそれを見てクスリと笑うと。
「仕様がねえなあ……ほらよ」
「ひゃっ」
背と足を支えられて、体が中に浮く。
ああ、私は一体、どれだけのことに幸福を感じたらいいの。
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天霧(プロフ) - うっひょうぅぅぅう!しのぶさん最高ですよ! (2021年11月5日 20時) (レス) id: 29b58b93c0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - しのぶちゃんかわいいですよね、、!更新待ってます! (2020年8月12日 22時) (レス) id: ec54d11116 (このIDを非表示/違反報告)
あやめ(プロフ) - めちゃくちゃこの作品好みです!更新お願いします!!!これからもがんばってください!! (2020年5月24日 21時) (レス) id: 2cb5bf810d (このIDを非表示/違反報告)
イツキ - 二人のイチャイチャ楽しみです! (2020年5月10日 12時) (レス) id: a90c8d5aa0 (このIDを非表示/違反報告)
剣華 - いつもニヤニヤしながら見させてもらってます。ほんと好きです!次の更新も楽しみにしてます!がんばってください。 (2020年5月7日 12時) (レス) id: e2d859c4ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たつき | 作成日時:2020年3月30日 7時