ー ページ27
ー
「あら、Aちゃんじゃないの!久しぶりだね、いらっしゃい」
「……みたらし団子四本、頼む」
「浮かない顔だね……待ってな」
昔から世話になっているこの店は、菓子が上手くて景色もいい。
山中だから人もまばらで、うるさすぎない空間が俺には丁度よかった。
通いつめているせいか、店の主人らに顔が知れていて、俺が来るといつも頼むものを出してくれる。
ただ、いつもは二本で済ませる団子を、今日は四本。
「はいよ。食べ過ぎると流石の鬼狩り様も太るんじゃないのかい?」
「鍛練があるからな。直ぐ消費する」
「鍛練ねぇ……」
婆さんは俺の隣に座って、自分で持ってきた茶を飲んだ。
婆さんっつっても……まだ四十後半くらいだけど。
しばらくして、亭主の方も姿を表して、さらに団子を持ってくる。
「ほらよ、もう店閉めるから、食えや」
「暇だな」
「うるせぇよ」
冗談さえ言えるこの空間が好きだったりする。
こいつらは、鬼狩りの存在を信じている。
何でも、婆さんの婆さんにあたる大婆とやらが、先祖代々、鬼狩りの伝説を話して聞かせているだとか。
本当に信じているのかは知らんが、真実だというていで話ができるのは、俺にとってもすごい気が楽だ。
そのおかげで、何かあればここに来る癖がついてしまった。
……自分でも気づかぬうちに、悩みを抱いているときでさえ。
「で?何があったよ、色男がそんな顔してちゃあ、女が慰めに寄ってくるぞ」
冗談めかしく亭主が言うが、あながち間違いでもない。
……色男かはともかく、寄ってくるというのは事実。
最近は特に感じる。
高い声が喧しいだとか、俺の前だけへこへこしているのが酷く滑稽だとか。
……そういうものなのか、女は。
自分の本当の姿を隠して、猫撫で声で近づいたところで何になる。
嫌いというわけではない……ただ、惨めで、鬱陶しいとは感じる。
……それを見るのが疲れた。
話すのが疲れた、関わるのが疲れた。
「女が全員婆さんだったらいいのによ……」
ボソリと呟くと「まだ婆さんじゃないよ」と平手打ちを食らう。それを受けながら、俺は。
婆さんもだけど……居る、話していて、飽きないやつが。
心地よくて、寧ろ、もっと話したいと……
頭に浮かぶ、凛とした姿。
髪をピシリとまとめて、蝶屋敷を訪ねると厳しい口調が嘘のように、柔らかく笑う。
……何かに、気づいてしまう。
ー
685人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
天霧(プロフ) - うっひょうぅぅぅう!しのぶさん最高ですよ! (2021年11月5日 20時) (レス) id: 29b58b93c0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - しのぶちゃんかわいいですよね、、!更新待ってます! (2020年8月12日 22時) (レス) id: ec54d11116 (このIDを非表示/違反報告)
あやめ(プロフ) - めちゃくちゃこの作品好みです!更新お願いします!!!これからもがんばってください!! (2020年5月24日 21時) (レス) id: 2cb5bf810d (このIDを非表示/違反報告)
イツキ - 二人のイチャイチャ楽しみです! (2020年5月10日 12時) (レス) id: a90c8d5aa0 (このIDを非表示/違反報告)
剣華 - いつもニヤニヤしながら見させてもらってます。ほんと好きです!次の更新も楽しみにしてます!がんばってください。 (2020年5月7日 12時) (レス) id: e2d859c4ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たつき | 作成日時:2020年3月30日 7時