不道徳な ひと【緑】vol.2

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私が就職したホテルは、地域密着型の、こじんまりとしたホテル

なので、幸か不幸か、料理人の人数も少なく、働き始めてすぐに、調理を任されることになった


「沼田っ、それ 火 強すぎんぞ」


「すみませんっ」

注意を受けることも、もちろんあるけれど、基本的には、和気あいあいとしていて、良いチームだと思う


「お疲れ様でした〜」


「おぅ、気をつけてな〜」

男性の多い職場だけど、みんな兄や父みたいな存在で、楽しく仕事をさせてもらってるおかげか、あっという間に1日が過ぎていく



「ただいま〜」

少しだけど、料理人として自信がついてきた、社会人2年目のある日


「おぅ、A 久しぶり〜」


「………まぁくん？」


「そうそうっ」


「えっ？なんで？まぁくん確か フランスじゃ…」

まぁくんは、お向かいに住んでた、5つ上のお兄さん。昔から料理が好きで、高校卒業と同時に、海外に修行に行くって、大きなスーツケース引いて、挨拶に来てくれた事、今でも覚えてる



「1週間前に、こっちに戻って来た」


「へぇ〜。で？今度は何処に行くの？」


「そろそろ、日本に落ち着こうと思ってさ」


「そうなのっ？じゃあ何処で働くの？駅前のビルの最上階のフレンチレストラン？あっ。それか、新しく出来たホテルとか？」


「あぁ、両方とも誘いはあったけど…。どっちも働く気 ないんだよね」


「そうなのっ？勿体無い…」


「自分の店をさ？持とうと思ってて」


「へぇ。まぁくんのお店なら、大人気間違いなしだね」


「でさ？Aに、聞いてほしい話 あるんだけど」


「うん、何？」


「俺とさ？一緒に働かない？」


「………えっ？」


「俺の店に、シェフとして来てもらえないかな？」


「ちょっ、待って。私 まだ働き出して2年だよ？まぁくんの知り合いなら、もっと腕のいい人いるでしょ？」


「実はさ、俺 お前の料理、食った事あるんだよね」


「いつ。何処でっ？」


「3日前。こっそりお前の働いてるホテル 行った」


「ウソ……」


「ほんとに。そりゃ、腕としてはまだまだだけど、心がさ？食べる人のことを考えて作った料理だって、すぐに感じたから。Aと一緒に働きたいって思った」


「あ…りがとう」


「返事、すぐにとは言わないから、考えといてほしい」


「……わかった」


久しぶりの再会だと思ったら、急なお誘いの話で、頭がついていけなかった

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