スパイダー【ars M.A】 (ページ5)

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日曜日。
俺は、段々寒くなってきた町を一人で歩いていた。

それしか方法が無いなら、仕方無くね？

カズ君の言葉を頭の中で反芻しながら、あの家を目指す。
心臓はさっきからずーっとドッドッドッて忙しくてちょっと息苦しい。
短距離走った後みたい。

でも、今日はピアノの音が聴こえてこない。

「...お留守かな...」

あの子の家が見える曲がり角からヒョコッと顔を出す。
やっぱり何も聴こえてこないから、家の前まで近付いてみた。

「浅雛...」

表札を見て、その横に出されてる小さな看板。

『あさひなピアノ教室』

こないだは気付かなかった。
そうだ、そう言えばあの子は俺に「お母さんの生徒さん？」って訊いて来たっけ。

ふーん。ピアノ教室か、カズ君ちとおんなじだ。

とか思いながら家を眺めてたら、突然ドアが開いたから慌てて隠れようと思ったんだけど...
隠れる場所無いし！

「センセー、バイバイ！」
「はい、バイバイ！またねー」

あわあわしてる内に家の中から小さな女の子が走り出てきて、その後ろには

あの子。

小さな女の子が俺の横を走り抜けて行く。
その子を見送ってたあの子が、俺を見て少しだけ驚いたような表情を見せた。

「...あっ！えっと、俺...」
「この間の...？」
「うん、そう...です」

やっべぇ...めちゃくちゃストーカーっぽくない？
どうしよ、見付かった時にどんな言い訳するかなんて考えて無かった！

「もしかして、アナタご近所さん？」
「へっ？あっ、えーっと...」

ご近所さん、では無い。
ここまでそこそこ歩いたもん。

「あっ、友達んちが近所なの！」

多分、この辺が家の同級生も居るはず！
だから嘘じゃない！

「そうなんだ」
「うん、そうなの」

アハーって笑ったら、彼女は納得してくれたのかニッコリ微笑んだ。
うぅっ、心臓ぎゅうってする。

「君んちってピアノ教室なんだね」
「うん、お母さんが先生で」
「俺の幼馴染んちもピアノ教室」
「へぇ！じゃあアナタもピアノ弾けるの？」
「んーん、俺は全然」

そこまで話して、ふと思い出した。

「あれ？でもさっき出て来た女の子、君に『センセー』って言ってた」
「あ、週末だけ小さい子のレッスンをしてて」
「先生なんだ！」
「あっ、ううん！私もピアノの先生になりたいから、その予行演習って言うか、子供達に付き合って貰ってるって言うか...」

彼女は恥ずかしそうに「私がレッスンして貰ってる感じ」と、笑って俯く。
思わず、その顔を覗き込みたくなる。