スパイダー【ars M.A】 (ページ22)

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ルページ22

こぼれた紅茶が、先生の白いブラウスを汚した。
それを先生が気にしたのも分かったけど、構わずその身体を抱き締めた。

「ごめん...その服、弁償する」
「...そんなの良いから...それよりあの、離して...」

先生が俺の胸をグゥっと押す。

「やだよ」

ブラウスにジワジワと広がる紅茶みたいに、先生の中で俺の存在が広がれば良い。
そして、気付いた時にはもう俺だけになってたら良い。

「...先生、どうやって今日の約束キャンセルしたの？」

彼女を抱き締めたまま訊く。
俺の胸を押してた彼女の手から、力が抜けたのを感じた。

「.....お母さんの手伝いしなきゃいけないって...」
「嘘ついたの？」
「.....」
「俺の為に、彼氏に嘘ついたんだよね？」

先生は何も言わない。
ただただ、大きく呼吸をしてるのだけが身体を通じて伝わって来る。

「...雅紀くん...何で...」
「ん？」
「何でこんな...」
「言っても良いの？」
「あ...言わないで！...言わないで...」

俺の腕の中で小さくなってる先生をギュッと抱き締める。

「もうやだ...」

抱き締めた彼女の、絞り出すみたいな声。

「可愛いとか...美味しいケーキ屋さんの話とか.....急に手に触れてきたりとか...」
「え...？」
「...もう、ホントやだ...」

先生の声は、どんどん細くなる。

「先生」
「.....」
「俺、18歳になったの」
「.....」
「結婚もできる年だよ」
「.....何言ってんの...」
「まだお酒も煙草も無理だけど、車はすぐに乗れるよーにするし」

先生の髪を撫でる。

「...やめてよ...」
「やめないよ。やめる訳無いでしょ」

もう一度、彼女の手が俺の胸を押した。

「ねぇ、先生。知ってる？」

俺の胸を押してる両手に、自分の両手を絡める。
至近距離で、先生と目が合った。
その目が、濡れてる。

「人間は心変わりする動物なんだよ？」

瞬きの音が聴こえる程に、近く。
俺の鼻と触れたその鼻は、冷たい。

「Aちゃん」
「.....っ」
「俺、Aちゃんが好き」

彼女が、絡まった指を藻掻くように動かした。

「俺、もうガキじゃない」

触れそうな唇と唇に、もう君は逃げようとしない。
僕は、君の全てを奪ってやると、牙を剥く。

五秒後。
僕は、君を、恋に堕とす。

・・・・・『スパイダー』END・・・・・