スパイダー【ars M.A】 (ページ3)

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ラページ3

「ねぇ、カズくんは『別れの曲』って知ってる？」
「別れの曲？」
「ショパンの。ショパンのね、やつ」
「まさか、まー君の口からショパンなんて言葉が出て来るなんて...」

ビックリー、って言ったカズ君がベッドを降りて部屋の端にあるキーボードの前に座った。
そして、鍵盤に指を滑らせる。

「あっ！それ！」

カズ君が弾いたのは、さっき聴いたあの曲。
胸がぎゅうう...って痛い。

「この曲がどうした？」
「俺が彼女と別れた後に、それ弾いてる人に出会ったの」
「へぇ、別れた後に別れの曲ねぇ。すごい偶然」
「でしょ？すごい偶然って、それもう運命って言わない？」

自分で言って、そうだ！運命だ！なんて思ってしまう。
これは運命だ。

「その人に恋したって事？」

『別れの曲』を軽ーい感じで弾きながら、カズ君が言う。

「うん」
「失恋直後に？」
「うん」
「節操無くない？」
「うーん...」

言われてみれば、そうなのかもしんない。
彼女と別れた直後に、違う人を好きになるなんて。

「けど、あの失恋はこの恋の為だったのかなー？って思っちゃったってゆーか...」

俺の失恋なのに、「寂しいね」って悲しい顔したあの人の事が、忘れられない。
名前も知らないのに。

「感傷に浸ってる時に、現実逃避するのに都合いい人に出会っちゃったってだけな気がするんだけどなー」
「そーなのかなー...」
「まー君って現実逃避しがちじゃん？」
「え？そーだっけ？」
「そーだよ、テスト前はいっつも現実逃避してる」
「それまた別問題じゃない？」

カズ君が弾いてる曲は『別れの曲』から、いつの間にかRPGゲームのテーマソングになってる。

「ねぇ、カズ君」
「んー？」
「どうしたらあの子と近付けるだろ...」
「さぁ」
「もっと親身になってよ！」
「やだよー、面倒臭い」

ハーッと息を吐き出して、カズ君は俺を見た。

「とりあえずさぁ、本当に恋なのかどうか一晩頭冷やして考えてみたら？」
「違うのかなぁ...」
「知らないけど」
「えー無責任ー」
「何でオレがお前の恋愛に責任持たなきゃなんないのよ」

またベッドに戻ったカズ君、今度はDSを手にしてゲームを始めた。
もう俺の話になんて、全然興味無さそう。

恋だと思ったんだけど...違うのかな。
胸がぎゅうってなったんだけどなぁ...。

俺はゲームしてるカズ君を置いて部屋を出て、自分ちに帰って。
部屋に入ると、大きな溜息が出た。

失恋のせい？
恋のせい？

もう一つ、溜息が零れた。