スパイダー【ars M.A】 (ページ19)

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テページ19

先生が、口を開けて何かを言いそうな表情を見せた。
でも、何も言わない。

「良いでしょ？」
「でも...」
「後ろ、乗ってよ」

自転車の後ろをチラッと見て、先生を見る。
先生は、パチパチと瞬きをして俯いた。

「やだ？」

それは自分から出たのに、何か聞いたこと無いような声。
先生はゆっくりと俺を見た。
そして、小さく首を振る。

「やじゃないよ。そんなんじゃ...無いんだけど...」
「じゃあ、乗って！おまわりさんに見付からないようにしなきゃねー！」

考える暇を与えたらいけないと思った。
掴んでる腕を少し引っ張ると、先生は自転車の後ろに跨って俺の腰に片手で掴まる。

「しゅっぱーつ！」

俺が言うと、背中で先生がフフッと笑う声が聴こえた。

自転車の後ろに先生を乗せて走る。
いつだってこの道を走る時はこれからのレッスンの事を考えて楽しかったけど、今日はそんなの比じゃない。

夕方の陽が、坂道を黄金色に染める。

「坂道だから、しっかり掴まってねー」
「大丈夫だよ」
「ダメだって！危ないからちゃんと両手で掴まって！」

自転車を漕ぎながら腰にある先生の手を前に引くと、その反動で彼女の身体がトンっと俺の背中に当たった。

「ね？」
「.....うん」

先生の両手が腰に回る。
背中に、先生の体温。

風を受けながら下る坂道。

もう俺、戻れない。

「ありがとね、楽ちんだったー」

先生の家の前で、自転車から下りた彼女は笑う。

「ううん、いつでもタクシー代わりにしてよ！」
「フフッ、そうさせて貰おうかなー」

冗談っぽく返して来る先生。
その笑った顔が可愛い。

「あ...そうだ」

でも、その笑顔はすぐ申し訳なさそうな顔になった。

「クリスマスイブなんだけど...」
「え？...あ、うん」
「日曜なんだけど、その日だけレッスンお休みにしても良いかな...？」
「え、何で？やだよ」
「ごめんね、でも...」
「彼氏とデートすんの？」
「.....」

俺とのレッスン休んでまで彼氏に会うとか、絶対やだ。
それにクリスマスイブは...

「俺、誕生日なんだよ」

言うと、先生は「え...」と小さな声を出した。

「誕生日、レッスンあるの楽しみにしてたのに」
「雅紀くん...」
「ダメなの？先生」
「.....」
「ねぇ」

俺は、先生のせいでワルイオトコになったの。
だから、先生は

「...うん、じゃあレッスンしよっか」

俺のせいでワルイオンナになってよ。

俺の為に、彼氏に嘘をついてよ。