スパイダー【ars M.A】 (ページ12)

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キページ12

その日から毎週日曜日は、先生のピアノレッスン。
俺は日曜の為に他の日を生きてる！なんて思っちゃうくらいに、日曜日が待ち遠しくなった。

でもやっぱりそんな簡単にピアノが弾けるようになる訳は無くって、最初なんて指がつりそうになりながら練習した。音符も読めないし。
だけど、ちょっとでも成長してるって思って貰いたくって俺はほぼ毎日カズくんちに行ってキーボードで練習させて貰った。

「カノンかぁ...」

俺の隣に学習机の椅子を引っ張って来て座ったカズくんが、楽譜を見て呟く。

「うん。先生が用意してくれてた」

初めてのレッスンの時に、貰った楽譜。
まず、これを弾けるようになろうねって言われた。

「これ、すげぇ弾きやすくアレンジしてあんのな」
「うん。俺でも弾けるように音符減らしてくれてんの」

先生が「この曲を頑張ろう」って弾いてくれた時は「無理だよー！」って思ったけど、俺用にアレンジしてくれた方を聴くと印象は「弾けるかも...」に変わった。
まぁ...俺用にって言うかチビッコレッスン用に教材として元から先生が作ってた楽譜なんだけど...。

「でもホントはショパンが弾きたいんだけどね...」
「いや、無理だろ」
「うん。先生にもショパンはちょっと難しいかなーって言われちゃった」

先生の好きなショパン、弾けたら俺を見る目も変わるかなーなんて思うのに。
急速にピアノ上達できないかな。

「あ...ねぇカズくん」
「やだ」
「まだ何も言ってない！」
「絶対面倒な事言うじゃん、そーゆー時の顔じゃん」
「俺にレッスンして！」
「ほらー！何だよ、それ！！超絶面倒じゃん！！」

椅子から立ち上がろうとしたカズくんの両肩を抑えつけて、立たせないようにする。
すげぇ怖い顔してるけど、ドーベルマンみたいになろうがどうせカズくんは柴犬だから。

「お願い！先生をビックリさせたいの！」
「だから、ショパンは初心者には難しいってば！」
「そこをほら、このカノンみたいにちょっと音符減らして簡単にするとか...」
「...そのアレンジをオレにさせるつもり？」
「......はい」

はぁぁ？って、カズくん般若の面みたい。
でも俺も負けない。だって、先生に格好良いトコ見せたいもん。

「...ショパンって言っても色々あるんですけど」
「良いの！？」
「ハァ...どの曲が弾きたいのよ」
「『別れの曲』はどう？」
「いやそれ、好きな人に向かって縁起悪くね？」

カズくんが、やっと笑った。