恋唄-オフィスラブ-【all】 (ページ20)

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あの日の未来が欲しいページ20

高校の家庭科の先生は

いつもニコニコしてて

纏う雰囲気も何もかもが柔らかくて

まるでお母さんのようだった。

高校生だった私は
家庭科の授業だけは好きだった

好きであるもののセンスがなく

調理自習ではいつも血を流していた

翔「差し入れ持ってきてくれんのは
嬉しいんだけどさ…」

部活終わりの翔に温めなおした料理を持って行ってはいつも苦笑いを浮かべられていた

「いいの作るのは好きなんだから」

翔「男の方が意外と血に弱いんだからな」

「だから絆創膏貼ってるでしょ」

翔「滲んでるの見るのもやなんだよ」

「じゃぁいーよ今度からは持ってこないから」

翔「Aが作るの上手くなりゃいい話じゃん」

「ご飯すら炊けない翔に言われたくない」

翔「ご飯くらい炊けるし！」

「あれはご飯じゃなくて
どう見たっておかゆだったでしょ」

翔「それはAが
柔らかいのがいいって言ったから」

「柔らかいのがいいって言っただけで
誰もおかゆが食べたいなんて言ってないもん」

翔「…わかったよ、また俺の負けですー」

「んふふ口で勝とうなんて100万年早い」

翔「うるせーよ
…指、もう一回洗って貼り直しとけよ」

反対方向を向いて

腕だけをこっちに向けた翔の指には

可愛いキャラクターが描かれた

絆創膏が握られていた

「ありがとう」

翔「…俺の方こそ
飯ありがと、味だけはうまいから」

そうか私が料理をある程度の物は
作れるようになったのは
翔のこの一言のおかげだったんだ

「アレは今練習中だから
美味しくできるようになったら
お弁当に入れて持ってきてあげる」

翔「野菜炒めならさ
カレー粉いれてカレーにしてよ」

「カレーはお弁当にいれれないでしょ」

翔「俺ん家で作れよ」

「や、やだよ！
なんでそんな面倒くさいこと私が…」

翔「冗談だよ、間にうけんなよ…バカ」

気づいてないわけじゃなかったけど

確信を持ってたわけでもなかった

だから私も翔も一歩が踏み出せなかった

踏み出す気もなかった

この関係が崩れるくらいなら…

本当にそう思ってたら

想いなんて少しづつ消えていって

十年以上もたてば
ほろ苦く、そして甘い思い出にかわっていった