桜前線 2【GO】 (ページ37)

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84　雨模様ページ37

稲妻町に戻ると、日常が戻ってきた。道端には紫陽花が咲いている。もうそんな時期か。そういえば最近は曇りだとか、雨が多い気がする。今日は晴れだけど、どこか湿気がある。週末、稲妻町を歩いていると、スポーツ用品店から剣城が出てきた。

「先輩」
「あれ、剣城。買い物？」
「はい」

個人練習用のスパイクを買い替えたらしい。シンプルなデザインだ。これから西公園で練習をするというので、ついていくことにした。

「この前天馬くんに化身を出す感覚ってどんなのって聞いたらさ。ピカーっと光るか、カーっと熱くなるって言われたんだけど、実際そうなの？」
「個人差はありますが、大体そんな感じです」
「そんな感じなんだ」

すると、急に土砂降りの雨が降った。こんなに降るなんて珍しいな。ここ数日はしとしとと降る雨だったのに。紫陽花の表面に美しい雨粒が流れている。

「うわー。雨だ。結構続くかなこれ」
「様子見するしかないようですね」

互いに傘はない。仕方なく、屋根のある遊具の中に移動することにした。狭い遊具の中に二人で体を詰め込む。小学生なら余裕で入れそうだけど、中学生の体には少し小さい。

「剣城ってさ、どうしてサッカー始めようと思ったの」
「...サッカーが好きな兄がいるんです。理由もなく、自然とサッカーしていました」
「お兄さんいるんだ」

雨が絶え間なく町を包むように降る。

「兄さんは...もうサッカーができない」
「え」
「俺の所為で」

話を聞くと、数年前、剣城が転落したのを兄が庇い、後遺症が残ったという。かける言葉が見つからなかった。咄嗟に考えても、その言葉をかけるのは正しいのかを考えてしまう。なんでも完璧にこなす剣城くんは複雑な過去を抱えていたと知った。

「フィフスセクターに入ったのも、そのことが関係しているの？」
「はい。兄さんの手術費と引き換えに、シードになりました。結局、手術費は得られませんでしたが、シードをやめたことに後悔はありません」

彼の目は真っ直ぐで、地に足がついていた。

「先輩がサッカーを始めたきっかけはなんだったんです」
「たっくんだよ。たっくんに出会ってから、サッカーの楽しさに出会えたの。私が元々いた世界のサッカーはもっと地味で、必殺技なんてない。でも、出会ってからは元の世界でもサッカーをするようになったの」

彼が過去を打ち明けてくれたように、私も初めて自分の過去を打ち明けた。