124 観客席には ページ28
声がしたので振り向くと、観客席には拓人くんがいた。入院しているはずなのに、来てくれていたんだ。
「たっくん！」
観客席へ向かうと、拓人くんは松葉杖をついて立っていた。隣の女性は看護師さんらしい。
「神童くん、本当はまだ動いちゃいけないんだけど、居ても立っても居られなかったみたいだから、病院から車で送ったの」
「その節はありがとうございました」
そして、拓人くんはこちらに視線を移した。
「見てたぞ、試合」
「たっくん」
「あの化身シュート。綺麗だった」
思わず潤む。さっき泣いたばかりなのに、また泣いてしまうなんて。
「ごめんね。泣くつもりなんて、ないのに」
その時、松葉杖の音がゆっくりと近づいてきて、彼の人差し指が涙を拭ってくれた。優しく微笑みを向けられ、自然と涙が止んだ。そして、拓人くんからの感謝の一言。
「サッカーを取り戻してくれて、本当にありがとう」
「...！」
拓人くんのサッカーへの思いを考えると、今度は違う意味で目頭がじわりと熱くなる。出会った時、拓人くんは毎日サッカーのことで苦悩していた。雷門のキャプテンとして葛藤を繰り返していた。そんな彼を支えたいと思った。力になりたいと思った。そして今、これからは誰に管理される訳でもない、自由なサッカーが待っている。自由なサッカーを求めていた全国の中学校のサッカー部にとって、最高の環境が戻ってきたのである。
「私も...私も、拓人くんに感謝してる。サッカーや雷門に出会わせてくれてありがとう」
涙を流しながら、にこっと笑った。不思議と、ありのままの感情を吐露したくなった。
「本当に、...本当にっ、嬉しかったんだ。雷門でサッカーしているとすごく楽しくて...」
「うん」
「現実では仕事ばかりの毎日でっ...、自分に存在価値なんてないんじゃないかって思ったりして、すごく辛かったんだけど...、努力していく内に自信がついてきて、ポジティブになれた。みんなのサッカーに本当に救われたの」
拓人くんは側で話を聴いてくれた。
「Aだから乗り越えられたんだと思うぞ」
「そうなのかな」
「ああ」
その微笑みが眩しかった。
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充滞(プロフ) - ビジュさん» イナイレ小説の作者様にそう言っていただけて嬉しいです！永劫回帰など拝読しております。コメントありがとうございます！ (2月22日 20時) (
レス) id: a229a1ca73 (このIDを非表示/違反報告)
ビジュ(プロフ) - 丁寧な試合シーンの描写に引き込まれました…！作者さんのサッカーの豊富な知識も伝わってきてすぐに虜になりました！お身体に気を付けてご自身のペースで頑張って下さい( ꈍᴗꈍ) (2月22日 18時) (レス) @page23 id: 529a911b17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：充滞 | 作成日時：2024年2月15日 20時
