陸参 青年と少女 ページ16
頭に包帯を巻いてもらい、周りを見渡せば黒い服の人が沢山居た。
八十が潜入捜査している場所だっけ。
「一部始終は聞いたよ。でも、なんでそんな怪我を？どうも襲われた被害者には見えなくて」
あれ、このゴリラ人間と似てる。
そっか、人間はゴリラと共存してるんだ。
「ただの喧嘩ですよ」
「喧嘩であれたァ、ヒステリックな奴だねィ」
「ほんとですよね。
殺しに掛かってんのかーって感じ」
「いやいや、どう考えても殺しに掛かってんだろ！」
そうツッコんで来た人は瞳孔が開いていた。
なので、ここの幹部なんだろう。多分。
「お世話になりました。
早く帰らないと、後が怖いんで。それじゃ」
「あ、待て」
茶髪くんの声は振り切った。
あそこにもっと居たら、可笑しくなりそう。
温かくて、何もかも正反対で。
脳震盪の症状は、いつの間にか治まったらしい。
「A、忘れちゃったの？」
「あっ、八十。…何を？」
そう答えれば、少し間を空けて頭について聞かれた。雅ちゃんとの事を話す。
久し振りに会った彼女は闇梟と呼ばれてて、梟が使い魔でその天質を持つ死神。
死神は命が芽生えた時に、使い魔が決まりその動物の性質を持って生まれてくる。
死神の狩に適した力を合わせ持つのが、梟。
だから、死神の中でも神に近い存在とされている。
逆に狼は…
「あり、山野？…てめぇは帰っていいですぜィ。
俺ァ丁度、病院に帰るとこなんで。ついでに」
「あ、はい。じゃあ…気を付けて」
孤独な存在だ。
「タクシー破壊の件、土方がフォローしといてくれるってよ。はい、始末書」
破壊したの私じゃないし…まぁ、でも運転手さんに迷惑かけてしまったのは確かだ。
「何ですか、始末書って」
「反省文みたいなやつでィ。ま、俺ぐらい反省点のない奴だと、上司に反省してほしい事を書いてらァ」
いやいや、お前さっき大砲みたいなので、上司ぶっ放してたけどッ！？
＿＿ワォォオン。
何処からか、遠吠えが聞こえた。
そろそろ、始業時間だ。
「茶髪くん、今日はありがとう。
またね…ってもう会わないか。さよなら」
例えば、死神じゃなかったら。
今の私の、例え難い気持ちの名前が分るのか。
例えば、人間だったら。
彼の名前を尋ねる事くらい出来ただろうか。
「いや、それ出しにくんだろィ」
振り返って彼は、少し微笑んだ。
…この笑顔、似てるな。って、何に？
「うん」
私もつられて笑う。
それは、人間の青年と死神の私の小さな約束。
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作者名：千の歌を歌う人 | 作成日時：2019年9月8日 1時
