陸壱 月と日の下で ページ14
月が地を照らす、そんな時間。
私は、ううん私達はビルの屋上に腰をかけた。
「…神威、私しなきゃいけないことがある。
一つは人間を守ること。そしたら……ちゃんと返さなきゃね。でも……………その前にありがとうって………言えるかな…ふ…ずっ」
視界がぼやける。
彼に初めて見せるだろう泣き顔にきっと驚いていることと思う。
でも………
「痛ッ!何でいきなり背中叩くの!?それも力いっぱい!!」
「喉に何か詰まったのかと思った!違った?」
「違う!……でもありがとう」
でも、これがこの人の励まし方なんだよね。
そんな風に笑われたら。
笑うしかないよね。
人通りのない裏路地には死神が隠れているはず。ターゲットを待ち構える為に。
しっかりしなきゃいけない、なのに
はっきりとした走馬灯が頭を過り、頭が痛む。
あの日。月の輝く晩。
…私が変えてしまった。人生を狂わせてしまったの。だから………今度は護る。
あの人が大切にしたものを、居場所を……仲間を。
…あの日、
血に塗れた、醜い鬼。
神などとは延々とかけ離れた。
神様がいるのだとしたら、聞きたい。
神の化身と言われる死神の生きる意味を。死の制裁を人々に与える私達は誰かを思ってはいけませんか?
誰かを生かしてはなりませんか?
「邪魔。どいて」
「…ッ!?」
後ろから勢いよくぶつかられ、そのまま倒れ込んだ。
この気配、この空気、人間じゃない。死神だ。それも、階級のある程度高い。立ち上がり、姿を確認すると目に入ったのは淡い橙色。
……曙…か。
死神には位があって下から、
あとは、階級には含まれない位に未明というものがあって、密偵という特殊な役割を担っている。
階級によってローブの色が違って、私は紫がかった青。つまりは宵という階級。
立場上、上司であるにも関わらずあの態度。
…あの人は知っているような気がする。
名前は……確か…
「待って、雅ちゃん」
合っているだろうか。だが、彼女はゆっくりと振り返った。すると…ずんずんとこっちにく……
「……ぐっ…」
いきなり胸ぐらを掴まれ、状況の方は掴めない。
紫の瞳は私を強く、強く、睨みつける。
「貴方を縛るのが記憶なら、忘れてしまえばいい」
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時