伍玖 夜闇 ページ12
「もう病院抜け出すんじゃねーぞ」
「…仕方ねェ暇なんで、土方さんの暗殺方法でも考えてまさァ」
「……そんな暇はねぇよ。はい、今日のノルマ」
そう言ってベッドの机の上に沢山の書類を置いて行きやがった。ちっ。
病室から出て行こうとする土方この野郎の背中にあるものを投げ付けた。
「…痛ッ…ん?総悟ォオオ!!何、紙飛行機なんて作ってんだよ!スーパーのチラシで作れ!!」
「すいやせん。てっきり紙ゴミかと」
「……そっかそっか…ってんなわけあるかァア!!
切腹だ、切腹」
「そういやここ最近、攘夷浪士共がめっきり顔を出しやせんねィ」
「あぁ、気になって山崎に監察を頼んだ」
未だ有力な情報は無いらしいが。山崎の野郎、俺を見習ってちっとは真面目に仕事しろよ。
部屋から誰もいなくなり、静かになったのはいい。
だがうるさいのに慣れてしまったらしく、寝ようと思っても寝れやしねェ。
らしくない。自分でもそう思ったが、仰向けになりながら書類に目を通した。
「はーい沖田さん失礼します。さぁ診察行きますよ。あら、また院食残したのー!そんなんだからガリガリなのよー」
「母ちゃん俺は平均体重でさァ。多分」
「あとそれ外して下さいね」
外す?
お袋系看護師が自分の首元を指してそう言ったので、自分の首元を見た。
…記憶にない、ネックレス。
「どうかしました?」
「いえ」
無造作にポケットに突っ込んだ。
思い出そうとすると頭が痛む、それだけじゃない。
何かが無くなってしまった、そんな喪失感までも薄らと感じる。気がする。
診察は空が赤く染まるまで続いた。
やっと解放されて、外の空気でも吸おうと庭園バルコニーのベンチに座った。
無意識にポケットから取り出していたネックレス。
俺は何か……大切な事を忘れちまったんだ。
どこか使命感を感じて、病院をバレないように抜け出した。外に出れば何か分かるかもしれない。そんな幼稚な考えからでもあった。
何も考えずに歩けば、俺のいつもの見回りコースだった。いっけねェ、いつの間にか土方みたいな仕事第一の頭になりかけてらァ。
夜闇が街を覆う頃、誰もいない公園のベンチに座り頭の後ろで腕を組む。
流石に帰らねェとまずいという焦燥感に駆られつつ、1時間以上はここにいるものだから、入院生活で頭がおかしくなったんだと思う。
そんな馬鹿げた事を考えていると、一人見知らぬ人が公園に入ってきた。
暗すぎて、男か女かも分からないが。
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時