鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ10)

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「昨日連絡もせずにどこ行ってたんだよ」
「すいません…携帯の…電源、切れてて」

翌日。

『真司、これ請求書。給料から引いとくからね』
「エッ？！」
『当たり前でしょ』
「俺家賃溜まってんだけど…」
『それでよく甘い物買ってくるとか言えたな』
「アッ！もしかして甘い物買ってこなかったの根に持ってる？！待ってた？！」
『おー、待ってた待ってた』

結局真司は、シャーペンの芯を買ってくると銘打って取材に行き、シャーペンの芯も甘い物も取材の成果も手に入れず、代わりに請求書を持って帰ってきた。
取材先で何やらやらかしたらしい。

ちなみに支払いやらは経理である私の仕事だ。面倒事増やしやがって。

『マ、一気に引いたりなんて鬼畜なことはしないから。とっとと仕事しな』
「…！ありがとうAちゃん！」
『免除じゃないから。分割して引くからね』

そう言って真司をデスクへ誘導し、私もパソコンに向き直る。
今日は経理としての仕事がメイン。昨日の記事で購読者が増え、給料も見直そうと編集長が言ったから。

「うわ！」
『…どうした？』
「ぁ、いや…」

と、隣のデスクで真司が声を上げた。横を見れば、彼は大きく椅子を引いていて、何かに怯えるようだった。
声をかければ、彼は誤魔化すようにして、恐る恐るパソコンに手を伸ばして起動する。

『何、ホラー映画でも見た？』
「あー、いや、それに…近いものは見た…かも」
『…？へぇ、こんな昼間からビビるなんて、相当だね』
「いや、マァ…うん」

飴食べる？と問えばイチゴ味がいいと言われた。昨日は指定なんざなかったのに、味をしめたなコイツ。
数度缶を振り直して、漸く出てきた赤い飴を彼の手に転がす。私もレモン味を口に放って、パソコンへ向かい直った。

給料、会社の活動資金、水道代、ガス代、電気代…。

『今月経理で落とすモノあります？レシートあれば』
「あるよ〜アマリリスの治療代」
『アマリ…了解です』

島田サンからレシートを受け取る。パソコン等、仕事で使うものの修理は、レシートさえあれば経理で落ちるのだ。
ちなみにアマリリスは彼女のデスクトップパソコンのこと。ノートパソコンはホワイトミルキーらしい。

会社の貯金にもいくらか割り振って…それぞれ給料割り振って…。あとは真司の弁償代。分割するとは言ったけど…5？10？分割くらいが丁度いいか。

『んん、』

一通りの割り振りが終わり、伸びをする。

今頃令子サンは取材かぁ。
ついて行きたかったなぁー……。