鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ3)

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特筆すべきこともない、平和な昼下がり。

『ただいま戻りましたー』

白いスーツと赤いピンヒール。鶴と称されたいつもの出で立ちで、私は仕事場へとやってきた。
ここはOREジャーナル。モバイルネットニュースの配信会社で、私はここの記者兼経理。

『あの俳優の不倫、裏とれました』
「おお！よくやった、A！記事も頼むぞ」

奥の一際大きな席に座るのは、OREジャーナルの代表取締役兼編集長。
彼はこんな格好の私を、色眼鏡で見ず雇ってくれた人だ。どこで働こうにもまず服と髪をどうにかしてこい、と門前払いだった私を、"鶴みたいで縁起が良いな。幸せ運んできてくれよ"なんて言って雇った人。
それを聞いた時は面食らったけれど、着いて行ったら楽しそうだと思った。実際私は今、実に楽しく仕事をしている。

「どう？」
『特ダネだと思いますよ。あの俳優、結構人気あったから』
「ふーん」

デスクに座れば、隣から掛けられた声。OREジャーナルの事務兼システムエンジニア、島田サンのものだ。
彼女はなんというか不思議な人で、パソコンに名前をつけたりイグアナを溺愛したりなど、特殊な行動が多い。
しかしシステムエンジニアとしての腕は中々のもので、私も彼女に助けられたことは少なくなかったりする。

ートゥルル…

カタカタとパソコンに文字を打ち込んでいると、備え付けの電話が鳴った。

「ハイ、OREジャーナル。…おー、令子！」

電話の相手は令子サンだったらしい。

令子サンは、私の先輩で敏腕記者。彼女の書く記事にはハズレがない。新人の頃はしょっちゅうお世話になって、今も機会があれば彼女の取材について行ったりするくらいには尊敬していて、大好きな人。

「あー、そうだ。それからー、真司のヤツ、手伝わせに行くから」

編集長は令子サンと話して、住所をメモし、そのあとそう言った。
この距離じゃ電話越しの声までは聞こえないけれど、令子サンは邪魔になるだけなんですけど、なんてため息をついているんだろう。

城戸真司。OREジャーナルの新人記者。
年齢的には二つ上だが、後輩だし敬意を払う必要も感じないので私は真司と呼んでいる。
一言で言えば、彼はバカ。編集長も認めるバカさ加減。それでも一生懸命だし、何にでも突っ込んでいく度胸を持ち合わせているし。なんだかんだ嫌いになれない、ちょっと憎いヤツ。

編集長、島田サン、令子サン、真司、そして私。
平凡で、でも楽しい日常が、これからも続いていく。

＿＿と、思っていた。