240メートルの誤算3【佐野玲於】

特別 ページ7

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初対面の、どこにでもいそうな女のコ
このコを選んだのに、理由なんて無かった。

俺のこと、知ってたらまずいなって
思ってはいたけど、なんでかそのときは
夜だから大丈夫なんて、色んなこと言い訳にして。

せっかく綺麗にセットしてた髪も、ぼろぼろにしてしまった。
名前聞かれたけど、教えなかった。

かわいそうだな
ごめんね

その時の俺は最低だったんだよ。
冷静さなんて、理性なんて、少しも残ってやいない。
自分のためだけに、このコを傷つけてしまった。

それでもあの数時間は、頭真っ白になるくらい必死で
汗も、唾液も、ぜんぶひとつみたいで。

他には何も考えられなかった。
たぶん、女のコも、同じこと考えてたと思う。

思わず聞いた名前
A って、呟いたきみは
俺が名前を呼ぶたびに、泣きそうな顔をしていた。




翌朝
5時過ぎに目が覚めて、見慣れない天井に慌てて起き上がると、隣には知らない女のコが安心した顔で眠ってた。

Aちゃん
きのうは、呼び捨てしてごめん。
彼氏とかいんのかな。
いたら、もっとごめん。彼氏もごめん。

俺自身、こんなことしちゃったのは初めてで
内心焦りながら、急いで服着て 自分の痕跡、ひとつも残さないように何度も確認して

Aちゃんの携帯も、こっそり見た。
写真とか撮られてたら、俺ほんとに終わる。まだ全然売れてないのに。
でも何もなくてほっとする。
…Aちゃんは、そんなことするタイプじゃないか…

最後、チェックアウトの時間前に部屋のアラームをセットして
でも、やっぱりやめた方がいいかもって思い直して、部屋を出る直前、引き返してオフにした。


そのとき、横向いてたAちゃんが、仰向けになる。
白い頬に、シーツの跡が赤く付いてる。
それを、指でなぞった。
たぶんもう、一生会うことはない。
…ごめん、ほんとにごめんね。


罪悪感に苛まれながら、部屋を出た。
携帯見たら、メンさんから大量のライン。
何返したらいいか分かんなくて、全部無視した。


それからずっと、怯えてたんだ。
もしバレたらどうする？
メンバーにも先輩にも迷惑かける。
何やってんだよ、バカかよ俺。


でも、きついトレーニングや仕事の合間
ほんと、ふとした瞬間に思い出してしまう。
それくらい特別な夜だった。


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