240メートルの誤算3【佐野玲於】

シャンパン ページ6

.


オープン記念パーティーの当日
仕事終わりにメンさんと、ラインに送られてた住所に向かった。
一応芸能人ってことで、裏口から。


中はすっかりクラブ状態。
既に酔ってる悠太が中央でへらへらしてて、おめでとーってプレゼント渡したあと、店内を見渡す。

どういうツテかほんと分かんねえけど
この前言ってた通り、芸能人の姿が多い。
目立つメンさんと挨拶して回ったり、連絡先交換したりとか、めんどくさかったけど頑張った。

暫くそうして過ごして
もう何杯目かのシャンパンを手にする。

…いいなあ、メンさん
目立つんだよなあ
俺なんて全然、全然、たぶん、テレビ出てるってことも、ここにいるひとたちは知らない。
メンさんの友達とか思われてるかな。…別にいいけどさ。

なんか気疲れ、というか
たぶん、ふつうに仕事帰りで疲れてて。

端にあったレザーのソファー座る。
グラスの中はもう、空になってた。

そのときふと、感じた視線
ちらって横見たら、ワンピース着た女の子が、俺のことじぃって見てて。
眉間、シワ寄ってる。
…俺が、酔ってるからかな。心配されてる？

「…調子乗りました。」

全然、脈略もないままそう呟く。
一瞬驚いたように見えたその子は、周りの音に消えないように、少し声を張って、返事をしてくれた。

「大丈夫ですか？」
「あ、はい、…多分。」
「…無理はしないで、その…」
「…あざっす。」

頭が、ぼおっとする。
また悪酔いしたのか、俺は。

もう一度その子を見たら、その大人しそうな雰囲気とか、丸っこい目とか
この空間で、明らかに浮いてて。

…ああなんか、なんだろうな。
この子、あれだな。
たぶん、ついてきちゃうな。
俺がおいでって言ったら、たぶん、ついてくる。

分かってて、
全部分かってて、声かけたんだ。
俺って最低じゃん、何やってんだよ、ほんと。


「……なんか、あれっすね。…タイプ違いますね、この場所と、…その、お姉さん。」
「…ですよね。…ちょっとだけ、帰りたいです。」
「…帰りたいっすか？」
「…ちょっとだけ。」
「……あー…僕も…」
「……え？」
「…出ません？僕、裏口知ってるんで。」

そのあと、少し戸惑ったその子は
不安そうな顔のまま頷いた。

薄暗い照明に紛れて、その子が持ってたシャンパングラスを 近くのカウンターに置く。
裏口に向かってドアを開けると、誰かが呼んでたタクシーが停まってて。

乗り込んだが、最後。
もう戻れなかった。

.

特別→←元カノ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す