240メートルの誤算3【佐野玲於】

泣けない ページ45

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翌日
重すぎる身体を起こして、仕事に向かう。
全然眠れなかったな
仕事休みたい
何もかもめんどくさい

起きてそのままの姿で事務所の会議室に入った俺を
メンバーみんな、目まん丸くして見てきた。
どうした？って、亜嵐くんが笑う。
マスク外して、椅子に座った。

「…彼女と別れた。」

呟いた俺に、ええ！って声が飛び交う。
Aのことはメンバーに全然話してなかったけど
まあ、彼女がいるってことは言ってたし
メンさんに至っては相談乗ってくれたし会ったこともあるし
龍友くんも、前に話したけど

「まじか…Aちゃん…」
「Aちゃんっていうの？彼女？」
「そうそう俺前に会ったことあって、」

メンディーが勝手に話し始めた。
やめろって怒る気力もない。
何も言えないまま項垂れて、机に突っ伏した。
…頭痛い。

「いや…4年って長いな。」
「でも良かったんちゃう？浮気するような子やし。」
「え？浮気？」
「なあ？玲於。浮気されてたんやろ。」

何も言い返せなかった。
そうだよ
浮気されてた。二回も。
けど、それでも良かったんだよ、なのに俺は

「……そ、マジでありえないでしょ。早く別れときゃよかった。」
「ほんまそうやで。4年間勿体無いって。」
「うん。…勿体無いことした、…ほんとに。」

メンさんが、俺のことじって見てた。
顔上げて笑い飛ばす俺を、珍しく真剣な表情で見てる。
…やめろよマジで
勘弁してよ


泣けないんだよ、全然
なんか多分、実感無くて。

昨日あのあと家帰ったとき、Aが畳んでくれてた洗濯物見て、思わず息が止まった。
まだ残ってるロールキャベツも
ラップに包んで冷凍してある白ごはんも。
俺バカだな
なんで家に呼んだりしたんだよ

でも、涙は出なかった。
また会える気がして。会えるわけないのに。
この4年間、ほんとに長い間、一緒にいたから。
2年前別れたいって言われたあとでも
時間空いたらすぐに会いに行ってた。
正直、うちのベッドより、Aんちのベッドで寝た回数のほうが、多いんじゃないかってくらい。

それくらい当たり前の存在で
だから、これで最後なんて、全然…


「じゃあ未練は無い感じ？てか玲於から振ったの？」
「うん。俺から振った。…まあ向こうも喜んでるよ、今頃。」


きっとあの大学生とくっついてんだろうなあ。
古本屋の店員って？
…意味わかんねえよ
潰れろよ、そんな店。


飲み行こう！って盛り上がったメンバー
全部隠して、笑った。


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