単なるきっかけ ページ43
Aside
『………………………』
「わー、すっごい絶望的な顔。私もあの時こんな顔だったのかな〜」
『………死にたい』
「…ほんと、なんつータイミングで交わってんだ私たち。ほら、よしよし」
『っ…』
私は彼女に包み込まれるようなハグをされる。
涙は止まることなく溢れてくる。
父が死んだ。私の目の前で。とても素敵な笑顔を見せて。母と同じ言葉を残して。“愛してる”。その言葉が一体どれほど重い言葉かを私は知っている。父の死を前に、私は弱音を吐くことしか出来なかった。
『死にたい。もういい。私はこれから一体どうやって生きていけばいいの?』
「……それでも私が今ここに居るのは、貴方が“生きる”選択をしたから」
『これから先、私が生きていける自信が無い』
「大丈夫。私にはマイキー………と、バジリンがいるでしょ。あの二人は、いつも傍にいてくれるから」
バジリンの名前を呼ぶ時に、少し声のトーンが下がった気がしたが、私は今彼女の腕の中にいるため、その表情は読み取れなかった。
それからしばらくして、やっと涙も止まり落ち着いてきた私は、体育座りをしながら床のある一点を見つめる。彼女はこの真っ白い空間の、果てしなく続く天井を見上げながら、手を腰に当てる。
「私にとって、二人が唯一の支えだった。二人がいたから私は乗り越えられた。私にとって唯一無二の存在。だから“何があっても”二人の事だけは信じてあげて」
『…うん』
その言葉と同時に、空間にヒビが入る。いつだってこの夢が覚めるのは唐突だ。覚め方も全く異なる。
しかし、そんなことよりも、彼女の発言に疑問を持った。その言い方だと、まるでこれからまた何かが起こるような言い方だ。また大事な所を聞き取れないまま覚めてしまう。次はいつ会えるか分からないのに。そんなことを思いながらも、私は意識を失った。
・
空間にヒビが入り、過去の自分が夢から覚めてこの空間から消えた後、まだ夢から覚めずにいた十二年後の鬼龍Aは、一人涙を落とした。
「今のあの子に、バジリンが死ぬなんて、そのせいで私が一虎を殺したなんて、言えない」
そう。今回の鬼龍一雄の死は、単なるきっかけにすぎなかった。鬼龍Aの精神崩壊を狙うとある人物の舞台で踊らされていることを、彼女はまだ知らない。
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ひめ☆そら(プロフ) - かかさん» そう言って頂き光栄です!ありがとうございます! (2021年7月9日 13時) (レス) id: f06e616829 (このIDを非表示/違反報告)
かか - 更新楽しみです!無理せず頑張ってください! (2021年7月9日 6時) (レス) id: b7e78c6068 (このIDを非表示/違反報告)
ひめ☆そら(プロフ) - 雪見大福さん» ありがとうございます!!無理せず頑張りたいと思います! (2021年6月6日 13時) (レス) id: f06e616829 (このIDを非表示/違反報告)
雪見大福(プロフ) - これからも無理せず頑張ってください (2021年6月6日 11時) (レス) id: 4031fb98ab (このIDを非表示/違反報告)
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