彼女の過去 ページ4
ブルックとAは牢屋から脱獄し、ヒツギ島の寂れた町のとある一軒家へ来ていた。
「ここには大したものはありませんが食料くらいならいくらかあるので」
「牛乳!牛乳はありますか!?」
「粉ミルクならあったはず」
Aはキッチンの方へ行くと程なくしてそれを見つけた。ブルックに教えると彼は嬉しそうにミルクを作り始めた。
「いやーまさかこんなところにミルクがあるなんて思いませんでしたよ!ありがたくいただきます!」
「どうぞ」
「ヨホホホ!カルシウムパワーでお肌ツルツル！あ、私肌ないんですけど!」
十八番のギャグを決めて笑っていたブルックは落ち着くと改めて辺りを見回した。
埃っぽい部屋はもうずいぶん使われていないように見えた。しかし荒らされている様子もなく静かに時を過ごしてきたように思えた。部屋の一角に小さな箪笥を見つけた。箪笥に置かれた枯れ果てた観葉植物のとなりに何かが立てかけてあるのを発見した。ブルックはおもむろに立ち上がりそれを手にした。積もった埃を手で拭うと見覚えのある女性が満面の笑みで写っている写真が出てきた。
「これは」
「私です。ここは私の生前住んでいた家なんです」
写真の彼女は少し幼く家族らしき人も写っていた。幸せな瞬間を切り取ったものだった。
「そうなんですね。だから粉ミルクの場所もすぐにわかった」
「はい。私はかつて町で小さな子供たちにピアノを教えていました」
子供たちの元気な歌と笑い声。小さく決して富裕ではないこの国の宝だった。しかし道化が来てからはその影も見当たらなかった。
「この町は死んだんです」
「死んだ?」
「道化の王は大人も子供も容赦なく虐殺し、私は成仏することもなくゴーストとなった。私は一人で王のもとへ行きましたが、その結果はあなたも知るとおりです」
「だから町には人っ子一人いなくてあなたは一人きりでいたんですね」
Aは頷いた。助けが来ることも無く、たまに吹くすきま風と雨の滴る音を聞き続けた無限地獄にも思える日々に突如として現れた彼は、まさに希望だった。
「もうあそこに幽閉されてどれほど経ったかわかりません」
「それはさぞ辛くて寂しかったでしょう。私も以前五十年独りきり梶のきかない船の上ですごしました。私は仲間の声を何度も繰り返し聞いては希望を捨てずにいました」
ブルックは頭蓋骨を開いて中から若干古ぼけた巻貝をを取り出した。
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作者名：アナログ2号 | 作成日時：2020年3月29日 0時
