恋人さん、＊日目。 ページ49
引越しからおよそ一ヶ月。
関西での生活にも慣れてきて、転勤先でもそこそこ上手く行き始めている。
それでも、なんだか心のつっかえが取れない。
あの日から、フジ君とは全く連絡をとっていない。
当日、見送ろうと空港に駆け付けてきてくれたキヨ、ヒラ君、こーちゃん。
フジ君の姿だけ、なかった。
もしかしたら、もう新しい彼女とか作ってたりして。
女性の扱いが上手い彼なら有り得る。
私の事なんか忘れてくれていいんだよ。
そう思った。
そう考えると胸が苦しくなるけれど。
嫉妬は醜いと自分に言い聞かせてやり過ごす。
そういえば、一週間ほど前に、キヨからL○NEが来た。
『遊びに行きたいからちょっと住所教えてくんない？』と。
取り敢えず近くの建物や簡単な地名だけを伝えた。
その三日後くらいに、突然呼び鈴が鳴った。
ドアを開ければ、そこにいたのはキヨ達だ。
「久しぶりぃ〜、Aっ！！元気してたか？」
「久しぶりだね、Aちゃんっ！」
「久しぶりだな。元気そうでなによりだわ」
でもそこに、フジ君の姿はなくて。
嫌な想像が頭をぐるぐる駆け巡った。
「久しぶり！キヨ、ヒラ君、こーちゃん！
よく来たね！！」
あの説明だけで来れたのがすごい。
てか来るなら言ってくれ、片付けたのに。
「っは、あと一人忘れてるぜ？」
「……え？」
私があっけらかんとしていると、キヨの背後からフジ君が顔を出した。
「久しぶり、Aちゃん！」
その笑顔は、前と変わってなくて。
安心して、頬が緩んだ。
「フジ君……」
私の足は自然と彼の元に向かってしまった。
キヨが横にちょっとだけずれると、フジ君は私に思い切り抱きついてきた。
「会いたかったよ、Aちゃんっ！！」
「ちょっ、重いっ」
でもその温もりが幸せで。
私の大好きなフジ君だ。
「相変わらず仲のいいことで」
「俺ら、お邪魔かなー？」
「んじゃちょっくら観光でもしてくるか？」
そんな会話が聞こえてきたあと、キヨがフジ君に何か耳打ちして、その場を後にしていった。
玄関先でこんな事してたら邪魔だし、『汚くてごめん』と断った後に彼を部屋に入れた。
「フジ君、この一ヶ月で新しい彼女作ったりしてないよね？」
「する訳ないじゃん！俺はAちゃん一筋だよ！？」
そう笑う笑顔は、私の大好きな笑顔。
私、この人の隣人で、恋人で、よかった。
これからもよろしくね、フジ君。
Fin.
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作者名：緋奈香 | 作成日時：2019年8月13日 6時
