お隣さんが不審者なんですが【fj】 (ページ48)

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お隣さん、最終日。ページ48

＊Fuji side＊

信じられなかった。
朝、急にAちゃんが訪ねてきて、それがすごく嬉しくて内心舞い上がっていた俺にはあまりにもパンチの強すぎる話だった。

「私、引っ越すことになったの」

淡々と、でもどこか悲しそうにAちゃんは言う。
俺は理解が追いつかなくて、言葉が出てこない。
そんな俺を置いてけぼりにするかのように、Aちゃんはまた淡々と言葉を繋げた。

「私、本社に異動することになったの。うちのグループの本社は関西にあってね、とてもここからじゃ通えないから、引っ越さないといけなくて」

転勤は来週なの、と付け足すAちゃんは相変わらず冷静だ。
取り乱すことなんて一切せず、淡々とただ言葉を繋げていくだけで。
俺はといえば、意識が遠のいていくようだった。
それほどショックだった。

まだ付き合ってあまり経っていないけど、もっと色んなところに行きたかった。もっと話したかった。もっと一緒にいたかった。
隠していた欲望が湧き上がってきて、俺はもう耐えきれなくて。

「そしたら、転勤は来週といえど忙しくなるでしょ。俺とも会えないかもなんでしょ？」

Aちゃんはコクリと頷いた。
その見慣れた顔には、哀しみがハッキリと浮かび上がっているようだった。
俺は彼女の腰を抱き寄せ、意を決して言った。

「なら、最後くらい恋人らしいこと、させてよ……」

Aちゃんが小さく頷いたのを確認して、俺は彼女に顔を近付けた。
この可愛い顔も、もう見られないんだ。そう考えると、今にも涙が出てきそうな気分だ。

音も立たないほど静かに、俺は最愛の『彼女』に口付けた。きっと最初で最後のキス。
何度も何度も口付けて、Aちゃんは俺を抱き締めてくれた。

「フジ君っ……」

そう俺を呼んだAちゃんの声は涙声。
彼女が顔を上げれば、頬を涙が伝っている。
その涙を見て、俺も泣きそうだったけれど。

男の──否、彼氏の俺が泣いてどうする。
彼女を笑顔にするのが彼氏の仕事だろ。
そうやって言い聞かせるのが精一杯で。

「Aちゃん……」

自身も涙声になりかけているのに、口を開いて初めて気がついた。
俺はAちゃんをもう一度抱き締めた。
本当は二度と、離したくないのに。

それじゃあね、と俺の部屋を出ていくAちゃんの背中に『頑張ってきて』と、か細く言うのが限界だった。

そして一週間後。
Aちゃんは関西へと旅立っていった。