お隣さんが不審者なんですが【fj】 (ページ39)

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お隣さん、三十六日目。ページ39

「えへへ、実はフジ君と飲み行ってたんだけど、私酔っちゃって。駅まで送ってもらおうとしてたところなんだ」

呆気に取られて彼女を見つめれば、『さっき言ってたこと、的中したな』とキヨに耳打ちされた。
さっき酔って変なことを口走りまくったくだりで、確かそんなことを言った気がする。

「そ、そうなんだ。フジ君、暗いから気を付けて送ってあげてね。って言っても、駅までならそんなに距離ないか」

ははは、と言う私の笑い声は乾いている。
それは自分でも十分自覚出来た。

「え、あ、Aちゃん……」

「キヨ、帰ろ。終電無くなっちゃう。じゃあね千夜ちゃん。またどっか遊びに行こうね」

「うん！またねぇAちゃん！！」

もうすっかり酔いも覚めて支えなしで立てるようになった私は、キヨの腕を引いて早足でそこをあとにした。
千夜ちゃんと遊ぶ気は、もう無いけど。

公園を出てそろそろ駅に着きそうなところで、キヨに話しかけられた。というより、指摘された。

「いつまで俺の腕掴んでんの？」

「あ」

指摘されて初めて気付き、パッと手を離す。
疲れてんのかなぁ、私。
電車に乗り込むと、中は案外空いていて、キヨと二人で座ることが出来た。

「……A」

「ん？」

「勘違いしてやんなよ。きっと仕事上の付き合いだ。あいつにもそれくらいあるさ。それがたまたま女だっただけ。気にすんな」

ポンポンとキヨに頭を撫でられる。
フジ君と違って、少し乱暴だけど。
それでも私の心は何故か満たされた。

「……そうだね。私、フジ君を信じるよ」

そう言いながら、さっきの光景がフラッシュバックした。
フジ君の隣にいた千夜ちゃんは、彼の腕に抱きついていた。
一番辛かったのは、フジ君が嫌そうにしてなかったことなんだけど……

嫉妬は醜いと、その出来事は忘れる事にした。

電車を降りて、駅から少し歩いた。
アパートに着いてから、私はキヨに目を向けた。

「ありがとう、キヨ。気をつけて帰ってね」

そう微笑めば、暗い中でもなんとなく、彼が微笑んでくれたのがわかった。

「あぁ。今度は酒とかなしにどっか遊び行こうぜ。んじゃな」

サッと手を挙げて去っていくキヨ。
その背中は、私よりずっと大きくて。
キヨに女性ファンがたくさんいるのも頷ける気がした。

ドアを開けていつもの如くベッドに倒れ込む。
もう起き上がる気力もなくて、私はそのまま眠ってしまった。